» 「世界短編傑作集1」読了 | date : 2009/07/04 | |
前回書いた「世界短編傑作集1」の書評。 海外の名作短編推理小説集。第一巻という事で、特に1860年代から1900年代の 黎明期の作品を集める。 「月長石」で有名なイギリスの文豪ウィルキー・コリンズから、 ロシアの大作家チェーホフ、悲劇の天才小説家ジャック・フットレルといった面々の 小説を掲載するなかなかバラエティに富んだラインナップ。 特にチェーホフのような中高生の教科書に出てきそうな大家が、推理小説的な 書き物を好んで読み、自身も何篇かその類の小説を著しているというのが興味深い。 自分が一番読みたかったジャック・フットレルの「十三号独房の問題」は噂に違わず かなり面白かった。 ”思考機械”とあだ名されるヴァン・ドゥーセン教授が、友人の学者との賭けのため 七重の扉に閉ざされた有名刑務所の独房に閉じ込められるというもので、彼は 一週間以内にここを脱出してみせると豪語の末、看守や所長と相対して脱獄の 知恵を練るという作品。 結末は意外性というよりも比較的手堅く纏めた感じで、「ああ、そうするしかないわな」 と思ったものだが、脱出するまでの過程において、ヴァン・ドゥーセン教授が繰り出す あの手この手の策略が抜群に面白く、独房に閉じ込められたはずの教授の手元に、 絶対入手できないはずの数々の道具が、なぜ次から次へと現れるのか、といった まるで手品のようなストーリーテリングが非常に鮮やか。 話を追うごとに深まる謎と、綺麗な着地点を提示する結末の種明かしとがあいまって、 これが1905年に書かれた古典だとは思えぬほどの超一級の短編ミステリとなって いる。人一人も死なないのに。 世のミステリ愛好家が、 「もしあの時ジャック・フットレルが、タイタニックとともに沈まなければ!」と 37歳の若さで大西洋に消えた天才作家を惜しむことしきりだというが、 それもむべなるかな、生きていればあと10年20年は名作を産み出してくれただろうし、 推理小説の歴史も大いに塗り変わっていたかもしれない。 |
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posted at 2009/07/04 9:50:25
lastupdate at 2009/07/04 10:07:33 »category : 書評 【修正】 |
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