ゲームブックについて:TVゲーム機&パソコンなしでアドベンチャーゲームを楽しむ
日本での流通時期 1980年〜1987年前後このページでは、小生が保有、現有しているゲームブックについて取り上げてみたい。
ゲームブックの起源を考えてみると、欧米でテーブルトークRPG等が人気を博する中、リプレイ手記をまとめてソロプレイを可能にしたものが原型ではなかろうか。
本の上で複数に分岐するシナリオを採用し、読者の選択によって読む章を指定して、その後の展開が違ってくると言う方式で、数あるバッドエンディングを回避した上で、最良の結末を目指すと言う構成になっている。日本でもっとも初期にこれを広めたのは、恐らく学研のジュニアチャンピオンコースという児童向けの叢書で、米国でも成功したゲームブックとしては初期の作品にあたる、バンタム・ブックスの”きみならどうする?”シリーズを和訳したもの。これの発売は1980年という事で、日本のゲームブックの黎明期として定めてもよいのでは。
自分は友人宅でこの手のゲームブックをかなり早い時期から体験しており、そのアイディアの斬新さと面白さに非常に驚かされたものだった。また、後年パソコン上にて”ミステリーハウス”や”ポートピア連続殺人事件”をプレイできるようになったとき、違和感無くそのシステムに馴染めたという事もあった。
その後パソコンはアドベンチャーゲームの全盛期を迎えるのだが、バッテリーバックアップやコマンド選択式が浸透するまで、家庭用ゲーム機ではアドベンチャーゲームあるいはRPGが十分な普及を見ることはなかった。当時の家庭用ゲーム機は少数の例外を除いてアクションゲームが中心であり、パソコンで馴染んだ一部の層以外の一般的プレイヤーは、そもそも思考型ゲームを遊びたいという欲求自体が少なかった。
問題はその”パソコンで馴染んだ一部の層”という奴であり、年長層は実際にパソコンを所有してそれらゲームを楽しむだけで良かったのだが、いわゆる”ナイコン族”と呼ばれる小中学生では、高価なパソコンを買ってもらう訳にもいかず、「アドベンチャーやRPGといった思考型ゲームをやりたい!」という欲求とのギャップが大きく圧し掛かっていったものであった。
後に廉価なMSXシリーズ等が登場して”ナイコン族”のかなりの部分を救済してくれたものの、それにしたって数万円の出費は強いられるわけで、全員がその恩恵に与れたわけではない。そんな状況の中で、安上がりな上にアドベンチャー&RPGを手軽に堪能できる手段として、1984年あたりからゲームブックがちょっとしたブームとなっていった訳である。
欧米でもテーブルトークRPGのリプレイ手記の一種としてゲームブックは活況を呈しており、また秀逸なオリジナルストーリーも数多く作られるに及んで、多くのファン層を掴んでいた。ゆえに日本でもこの手の優秀作品が次々と邦訳され、続いて日本自体でもオリジナルのゲームブックが次々と作成されるなど、全盛期と言ってもよい人気を得ることに成功した。
しかし、その人気がピークに達した1987年頃から、家庭用TVゲーム機がバッテリーバックアップを活用するようになり、アドベンチャーゲームもコマンド選択式が主体になり、アクションゲームをプレイするのと同じ手軽さで、思考型ゲームがプレイ可能になってきた。
こうなると、主人公のHPや、所持するゴールド、アイテムなどを自前のメモで管理しなければならないゲームブックは極めて煩雑で、また紙という容量に制限される本という形式は、ROMメディアや光学メディアの増量にも及ばず、あっという間に駆逐され、1990年代を待たずにほぼ全滅に近い様相を呈していた。
今でも一部にゲームブック待望論は存在し、近年、英国などで新作が登場し、ゲームブック復興の動きは出てきている。それらが邦訳される事もたびたびあり、風向きとしてはゲームブックによい流れになっているのかもしれない。また、ファン層が作成した、いにしえのゲームブック紹介ページがWeb上で散在し、この分野の更なる興隆を期待する人たちも結構いるみたいだ。しかし、昔のような流行が日本で実現できるかとなると、実際問題としてはいささか難しいと考える。
ゲームブックの面白さをTVゲームに落とし込んだ発展系としては、サウンドノベルが挙げられる。SFCの時代から「弟切草」「かまいたちの夜」など傑作が登場し、この後もセガサターンやPS2,PS3などで素晴らしい作品が輩出されているし、文字メディアでこれを上回ろうとすれば、相当の内容吟味が必要になるだろう。
また、パラメータや所持品の管理といった部分は、もうコンピュータの独壇場であり、ゲームブックに付きものの、メモ紙握り締めて本のページをめくるなんて作業はノスタルジーの要素以外では耐えられない面倒くささである。
唯一可能性があるとすれば、電子書籍にこれら要素を盛り込んでみる事だが、それならサウンドノベルをまるごとスマホかタブレットPCにぶちこんでしまえ、と思わんこともない。
しかし、過去に存在したゲームブックの数々は、パソコンで誕生した世界観を、特別な道具無しで楽しめるという特性を持っており、TVゲーム&パソコンに併走したサブカルのサブカルとして、記憶にとどめておくのも悪くはない品々だと思う。
ゲームブックの製作者たちも、通常のTVゲーム&パソコンゲーム製作者に匹敵あるいは上回る情熱でエンターテイメントを提供する事に心を砕いており、その意味でも振り返るに値する作品群である。また、電子メディアとアナログメディアの補完関係としては、いまだに一考の余地がある助け合いの成功例と言えるのではないだろうか。
(株)MIA「ドラゴンスレイヤー」日本ファルコム・宮本恒之著(13.01.14)
西東社「新シミュレーション・ブックス ベースボール・ゲーム 甲子園大会編」レギュラーズ9作、ダイナマイト鉄画(13.01.26)