MIA「ドラゴンスレイヤー」日本ファルコム・宮本恒之著

 ゲームブック最大の特徴は、電子ゲームのようにTVゲーム&パソコンゲームに即座に駆逐された訳ではなく、長らく相互補完関係にあったということである。
一種のメディアミックス戦術に近く、電子ゲームのようにTVゲームのイミテーション的存在を強いられたというよりも、数多く作られたグッズの中で、世界観を深めるためのツールとして活用された側面もあった。

それゆえ人気TVゲーム、パソコンゲームのゲームブックが数多く出版され、それなりに人気を博していたのであるが、本作”ドラゴンスレイヤー”もまさにその線上にある代表作。監修、作成ともに日本ファルコムとそのスタッフが直々に当たり、原作の雰囲気をゲームブック内に忠実に移植している。

とはいえ、実際に”ドラゴンスレイヤー”と呼べる部分はボスの三つ首竜”ビオライン”に限定されており、あとは登場するモンスターや魔法、地下迷宮の雰囲気も全て続編の”ザナドゥ”を模したものになっている。

主人公は、レベル、HP、魔法、所持アイテムといったパラメータを持っており、戦闘はダイス2個を使用してランダム要素とするなど、かなり要求される情報管理量は多い。しかし、わざわざアイテム専用のページを設けて、それを山折にする事により所持アイテムを記憶させたり、ランク、HP等も早見表を使って自分の状態が出来るだけ分かりやすくなるようにするなど最大限の工夫はなされている。

あとこれはゲームブックの定番でもあるのだが、ページ下にはダイス代替の賽の目も印刷されており、一応本だけでもプレイが完結できるように構成はされている。
 

表紙。なかなか迫力ある絵柄ではあるが、このドラゴンはゲーム中には登場しない・・・。まあ、まんまPCゲームのパケ引用なんだけれども。
 

ゲームブックの中身

レベルとHPを同時管理する一覧表。主人公は章が進むごとにレベル4まで強化され、HPは最小3から最大6まで増える。

魔法のダイス効果表。序盤で賢者にアイテムを贈ると、代替として魔法を受け取る事になる。アイテムをかき集めるのが第一章の冒険で、その成果如何によって貰える魔法に差が出てくる。魔法は戦闘のときに強力な効果を発揮するが、消費型なので、使いどころは厳選したい。

アイテムの章では現在自分が持っている武装、魔法、アイテムが管理される。すべて1ページづつ割かれており、裏ページにはそれぞれの説明文が記載されている。

所持するアイテムはページの指示どおり折り曲げると、自分が何を持っているか把握できるような仕掛けになっている。プレイヤーの負担を減らそうとするアイディアと努力は大いに買いたいが、持ってるアイテムの数が増えると、結局一枚一枚めくって調べなきゃならんので、実効性は微妙。

迷宮探索。雰囲気は、”ドラゴンスレイヤー”というよりも、やはり”ザナドゥ”である。つーか、もっと言うと、”ウィザードリィ”か”ブラックオニキス”に近い。東西南北に通路が伸びた、ワイヤーフレームで再現が可能な3D迷路である。もちろんマッピングも可能。

強敵アウルベアー。出典はやはり”ザナドゥ”。HP5、AC最大13、最大攻撃力+2という通常攻撃型の魔物としてはかなりの豪腕。強敵。
 

邪悪な魔法使いアデプト。これまた出典は”ザナドゥ”。稲妻の魔法を駆使し、主人公のHPを最大2削ってくる。HPは3と標準的。

ラスボス、ビオライン。これだけは出典が”ドラゴンスレイヤー”。アイテムでも”ドラゴンスレイヤー”を保持していなければ即ゲームオーバー。HP4は標準的だが、AC14、火炎魔法でHPを最大3も削ってくる。その上こっちの魔法は全て効かないという凶悪ぶり。負けるとゲームオーバー、勝てばエンディング。ちなみにこれはベストケースで全てアイテムを揃えた場合の対ビオライン戦であり、欠落があると、AC15のビオラインと戦わなくてはならなくなる。

このゲームブックの特徴

主人公に関する管理情報が極めて多いが、ページを折り曲げたり、分かりやすい一覧表を使って情報を把握しやすいようにしているため、読者の負担が幾分軽くなっているのが特徴。

情報管理量の多いゲームは難易度も高いというのがゲームブックのだいたいのお決まりなのだが、このゲームもご多分に漏れず、難易度はかなり高い。何が一番しんどいかと言えば、ダイス運に大きく左右される戦闘で、たとえ最弱クラスの魔物とぶつかっても、出目が悪ければ無抵抗のまま即死という事もありうる。
話が進展してレベルが上がっても、登場する魔物も比例して強くなるので、バランス的にはずっとしんどい闘いを強いられることになる。

迷宮探索は、必要な情報やアイテムを得るために調査を念入りに行う必要性があるのだが、きっついトラップも多く、探索継続に支障をきたしてしまうような展開も多い。何回かゲームオーバーになって、覚えゲー状態にしないとラスボス勝利まではたどり着かないと思う。

迷宮内のイラストや敵の絵は非常に質が高く、いかにも冒険している、という雰囲気を感じられるのは美点。

ゲームブックというひとくくりの中では、難易度、完成度ともに中程度といったところか。やはり特筆事項としては、何度も書いているが情報管理に最大限の注意を払い、読者をアシストしようと努力している点だと思われる。

逆に言えば、その配慮が行き届いていないゲームブックも多かったという事。今となってはの話だが、それを怠った点が、ゲームブックの衰退を促した面もあると思う。
 

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