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» 「オーデュボンの祈り」読了 date : 2006/07/28
伊坂幸太郎著「「オーデュボンの祈り」読了。

以下あらすじ。
プログラマーを辞めた後、定職につかずブラブラしていた主人公伊藤は、
発作的にコンビニ強盗に押し入ってしまう。
結果的に強盗は未遂となり、伊藤は警察からの逃亡を図るのだが、
その途中で気を失ってしまった。
目が覚めると、日本国内であるにも関わらず、久しく本土より忘れ去られた孤島に
運ばれていた。苦境から救われたような形である。

本土から認知されていなくても、そこには人が住み、社会があり、事件がある。
また、江戸時代末から本土との交流を断っていたとはいえ、
本土と交易をやっている男もおり、娑婆の風はそこにも吹いていた。

しかし、その島独特の風習や、風物も存在する。中でも伊藤が驚いたのは、
一週間以内の事ならすべての未来を予測できるという、しゃべる「かかし」の
存在だった。かかしに諭され、しばらくその島での滞在を決める伊藤。
しかし、あくる日、かかしは何者かによってバラバラに破壊され、
もはや口の聞けない「死」を迎えていた。
予め起こる事を察知できる「かかし」が、何故自分の死は予知できなかったのか。
かかしの「生前」の言葉を噛み締め、己の半生を振り返っていた伊藤は、
真相を突き止めるべく調査を開始する。


総括すると、なかなか面白い小説。
まず、しゃべる、尚且つ未来が予言できるという「案山子」の存在が面白い。
これは無謬の探偵のメタファーでもあるのだが。
その案山子が、何故殺されなければならなかったのか。
また、犯人の目的は一体何だったのか。素晴らしく魅力的な謎が提示されている。
結末に至るまでのストーリーテリングも極めて上手く、読ませるための
高い技術を持っている作家だと思う。

しかし、肝心の結論が物語を綺麗に収めることに執心したためか、
確かに着地点は美しいのだけれども、イマイチ弾けた所がなくて、常識的な
ラインに落ち着いてしまうのがちょっと弱点かなあ、と思った。
例えば、「○○の存在は○○を○○するため」という風に、
ある程度先が読めてしまうのだ。
読者を欺き、意外なところに着地点を持ってくる小説が好きな自分としては、
多少もの足りない部分があったことも事実。

突飛極まりない出だしで読者をぐいぐい引きずりこむストーリーの面白さは
抜群のものがあるにも関わらず、
読了後は「ちょっと予定調和の色が濃すぎゃしねえか?」と感じてしまった。

しかし、ウェルメイドの悲喜劇としては、読後感も爽やかで、
出来の良い小説ではある。
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  posted at 2006/07/28 17:03:33
lastupdate at 2006/07/28 17:13:41
»category : 書評修正

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