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» 「妃は船を沈める」読了 date : 2008/10/04
有栖川有栖「妃は船を沈める」読了。

2つの中編を繋げて、長編と化した小説。
元はそれぞれ別の中篇だったらしいが、共通する登場人物がいるために、
幕間を追加して長編小説として刊行したとの事。
それぞれは別個の事件、独立した事件であるので、単独の小説としても
読むことが出来る。

有栖川有栖は、エラリー・クイーンに私淑し、鮎川哲也門下で腕を磨いた
論理魔人として名高い。
事件が何故そのような事態に陥ったか、小説中に散りばめられた手がかりを
寄せ集めて堅牢なロジックを構成し、作者の想定した着地点にもっていく腕前は、
新本格と称されるミステリ作家の一群にあっても一頭地を抜き、自分が大いに
信頼する書き手の一人である。

が、本作品は珍しく、ロジックよりもトリックに重きを置いた作品のように
見受けられる。それは元来が中編であったから、という事情にも拠るものだろうが、
精緻な論理で犯人像を明確に割り出す、というよりは、不可思議な事態に
対して合理的な説明をつける、という色あいの方が強いように感じた。

前編の「猿の手」のトリックは鮮やかだと思う。ホラーの古典的名作を
バックボーンにして、切れ味のいい結末が用意されている。
また、小説のプロローグも巧い具合に効いている。

それに比べると後編の「残酷な揺り籠」の方は、やや落ちる印象。
動機が甘いのはまあ許容しても、そもそも犯行自体が杜撰な気がする。

それでも一定のレベルにはあるので、読んで損した、とかいう感じはない。
有栖川有栖に大はずれはあまりないので、安心して読める。
本作を野球の打球で喩えれば、一二塁間をゴロで抜くライト前ヒットといったところ。
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  posted at 2008/10/04 0:49:41
lastupdate at 2008/10/04 0:52:32
»category : 書評修正

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