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» 「帝国以後」読了 date : 2008/03/23
2003年刊行の本をいまさら読んでしまう事に自分のアンテナの低さを思い知らされて
忸怩たるものがあるが、とりあえず、エマニュエル・トッド著「帝国以後」読了。

アマゾンから来ない来ないと言ってた本が今日届いてしまった。
しかし、カバーと帯は新品なものの、綴じ代の上面が剥げてるなど、明らかな
再販本で萎える。

著者はフランスの歴史学者で人口学の研究者。

本書は、アメリカは1995年以降、自国の影響力低下を隠すために
世界中で騒乱を起こして自己の強さを主要国に示威し、それによって唯一の
世界帝国であるというフィクションを演じている、と論じる内容である。

そういう行動パターンに陥ったアメリカは、もはや世界の不安要素であり
これまでのような世界の守護者ではないとし、
真の大国であるヨーロッパ、ロシア、日本は、アメリカをそういう冒険主義から
脱却させつつ、協力して新たな世界秩序を構築する義務がある、と主張する。

各国の識字率の向上に連動する出生率の低下から、中東の騒乱は
権威主義的社会から近代社会に生まれ変わるときの軋轢に過ぎずやがて
安定化に向かうという分析、
アメリカの黒人の乳幼児の死亡率増加から、アメリカが、ついに人種差別の撤廃
に失敗し、社会的にも後退局面に入ったとする筆者の人口動態を基にする分析は、
なかなか迫力があって説得的である。

しかし経済的知識はこの人怪しいなあ。
アメリカの経済学者であるクルーグマンやらスティグリッツを批判してるけど、
グローバリズムによる自由貿易は総需要の後退をもたらす、とか、
アメリカのGNP値は、エンロンの粉飾決算が示すようにもはや信用できない、とか。

替わりに数値として引っ張ってくるのが貿易による輸入額で、しかも工業製品だけを
重視しているあたりも怪しい。

そのくせ、アメリカも1990〜1995年までは、帝国主義的振る舞いを
していなかったとの主張を補強するのに、(信用できないと一言断りを入れながらも)
GNP値に対する軍事費用の低下を示しているんだもん。

その後も、アメリカのGNP値の信用できなさを主張するのに、
二言目には”エンロン、エンロン”だもんなあ。他に根拠はないんかい。

ロシアに対してはめっちゃ甘い。
1998〜1999年に乳幼児の死亡率が16.5から16.9に向上してることに対して、
「ロシア連邦の領土は異種混合的であるため、現段階でこの最近の低下がロシアの
中核部にとって有意的であるとは考えにくい。」
ええええええ?
アメリカなんて1997〜1999年の間に、黒人乳幼児の死亡率は
14.2から14.6へと同じく0.4上昇してるだけなのに、著者はアメリカ社会に
対しては
「人種統合の努力をついに放棄した!!」と声高に宣告しているというのに・・・・。
相手がロシアとなるとこの甘やかしようは一体なんなのか。

おまけに、ロシアに関しては粉飾決算などございません、と言わんばかりに、
GNP値に対する工業製品の出荷の伸びを嬉々として提示しているし。
なんというダブスタ。

日本も、この著者に「真の大国」とか「新しい世界秩序を構築すべき柱の一つ」とか
おだてられてるけど、どうも信用できねえ。

まあ、アメリカの唯一不可侵的な立場が下落して普通の強国に墜ちていく、
という構図は納得できるものの、細かい部分においては自国フランスと
EUを擁護するために、かなりのバイアスが係っていると思わざるを得ない。
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  posted at 2008/03/23 23:39:20
lastupdate at 2008/03/24 1:50:26
»category : 書評修正

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