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» 「ナイチンゲールの沈黙」読了 date : 2006/11/12
海堂尊著「ナイチンゲールの沈黙」読了。

「チームバチスタの栄光」に続く続編。
ちゃんとした職業作家として軌道に乗れるか、伸るか反るかの第二作。
ちなみに京極夏彦は、二作目「魍魎の匣」でホームランかっ飛ばして勢いに乗った。
もっとも海堂さんは医師が本業らしいので、職業作家としての貫徹を
意識しているかどうかは分からない。
まあ、それを言えば京極も本職は装丁デザイナーだから、もともと小説は
副業な訳だが。

以下あらすじ。
小児科看護婦の浜田小夜は、ふとしたきっかけで伝説の歌手水落冴子の
ステージを観ることになり、歌のさなか倒れた冴子を助け、自ら勤務する
東城大学付属病院へ入院させて命を救う事になった。
その時、当直医だった田口医師と知り合い、自分の担当する小児患者で
目に重病を抱える子供達の、メンタルケアを依頼することになる。
目の摘出手術を控えた子供達の面談を行ううち、その中の一人、
牧村瑞人という14歳の少年の父親が殺害されるという事件が発生する。
それも、捜査にあたった警官が辟易するような、異様な殺害のされ方であった。
事件の解決のため、警察庁の腕利き加納警視正と、厚生省の白鳥、
そして田口医師が再び謎に挑んでいく。


京極夏彦の「魍魎」がホームランなら、「ナイチンゲール」は内野手の拙い守りに
助けられたすれすれの内野安打といったところか。

まあ賛否の分かれる”○○”については、ギミックとしてぎりぎり許容しよう。
しかし、田口が目立たない。田口というキャラは、従来の探偵のポジションを
凌駕する極めて特異なキャラとなりうる人物だと思う。
白鳥の方が確かに造形は強烈だが、過去の推理小説の探偵という役割から
一歩もはみ出ていない。今回追加された加納も、警察代表という役割を
負わされているだけ。
田口は違う。
犯罪の中に潜むディテールをすべて炙り出す特異能力を持っている。
それでいて、事件を解決するために必要な推理能力はほぼゼロ。
そのくせ真相が明らかになった後の処理は誰よりも巧みという、
今までにない特異なキャラクターなのだ。

前作にあったそのよさが、今回は出てない。
田口は、加納と白鳥の激しい遣り取りの中でひたすら影が薄くなっていく。
そして、じゃあ加納と白鳥が生き生きしてるかというと、
これがキャラの食い合いをしてるだけで共倒れ臭いのだ。

今回感心させられたのは、千里眼の眠り猫。
こういう人物を造らせたら、この作者は抜群に上手い。

ここからはすこしネタバレになる。未読で読む気のある人はパスしてください。
田口さんにいい女性をくっつけてあげてください。
事件のたびにカップル誕生で田口さん置いてけぼりなのは、
傍目から見てて気の毒です。

また、今回のカップルは気に食わねえんだこれが。なんだよそれ。
恋愛の成立するベクトルがいびつなんだ。
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  posted at 2006/11/12 6:28:55
lastupdate at 2006/11/12 16:16:32
»category : 書評修正

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