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» 「経済成長って何で必要なんだろう?」読了 date : 2010/03/13
芹沢一也・荻上チキ編・飯田泰之対談「経済成長って何で必要なんだろう?」読了。

人文系の論客である芹沢一也・荻上チキ両氏が、現代日本の貧困、格差問題を
考えるためにプレカリアート運動や貧民救済に働いているその方面の旗手を
招いて、経済学の若手論客たる飯田泰之氏との鼎談によって、解決方法を経済発展
の中に求めていくという対談集。

個人的に割と信用している若手経済学者、飯田泰之氏が話の中心となっている
対談集とあって、なかなかためになった本。

概ね他の飯田氏の著作と主張内容は変わらないが、要は自身もロスジェネ世代に
属する飯田泰之氏が、同世代への共感を持って、現在の20代、30代が如何に
政治的&経済的に冷遇されているかを具体的な数値で表し、所得再配分の公正化
とベーシックインカム制度の導入、適切な金融政策によって経済発展を推し進め、
若い貧困層を救済していくという従来の主張を、各論客との対談の中で改めて
表明していくという内容。

一つ一つ言っていることは非常にうなずける話で、相変わらず現代日本の問題点を
正しく理解するためには誠にまっとうな本だと思う。
対談相手の岡田靖、赤木智弘、湯浅誠各氏も、それぞれの分野で今の閉塞感を
打破するために活躍されている方々とあって、何がダメなのか、何故ダメになっている
のかを浮き彫りにするためには非常に良い人選と思われ。

しかし、個人的には飯田氏の意見で一件違和感があったので申し添えておく。
もともと飯田氏は地方にばら撒きを行う公共事業には否定的で、
「現在の日本は1万人を生活させる能力しかない地方を、ばら撒き政策で10万人
都市にしてしまっている。
ばら撒きは所得再配分の一手法としては非常に有効だが、その分、都会の収入が
吸い上げられて田舎に散布されている状態。
日本の都市圏集中は世界的に見てもそれほど高い方だとは言えず、経済的な
効率を追求するにはもっと多くの人が都市圏に集中して、そこで高い収入を得られる
仕事に就いてもらった方がいい。そうすれば低所得者の賃金を押し上げる一助に
なる上に、現在田舎にばら撒いている無駄な金を都会に還流することが出来、経済
発展に貢献できるようになる」
という意見を表明している。
これに対し、荻上氏が、
「人は生まれた場所を選べない。ノスタルジーや愛郷心もある。そういう人達は
生まれ故郷の地方が寂れていくのを我慢できないと思うのだが」
と、道理の問題提示を行うと、飯田氏は、
「自分の家は引越しが多かったからそういった愛郷心は理解できない。自分のような
応用分野の経済学者は、そういう定性的な議論は苦手なので、定量的なコスト問題
として解決方法を提示する」
として、「今田舎にいる人が、現収入の1/10を地方の維持に投資すれば、今のまま
の生活が維持できると思う。障害者等のバリアフリーを社会で設けていくのと同様、
田舎を維持するという事業を社会で実施していく。そういう解決方法しかないのでは。
しかし、障害者に対するコストは社会的に容認されても、田舎を維持するというコスト
は、費用対効果もあって、到底容認されないのでは?(要は田舎を捨てろ)」
という回答を示している。

まあそこまで言うんだったら、ロスジェネで失職している人達を切り捨てた場合の
経済的コストと、救済したコストとリスクの比較もやって欲しいわな。
35歳から30歳までの失職者は切り捨てた方が日本経済的には得です、的な結論が
ひょっとしたら出るかもしれないじゃん。(まあそうはならないと思うけど、議論上ね。)

世代的な帰属感があるからロスジェネは救いたい、地方に対する帰属感は持ってない
のでコスト的に切り捨てても構わない、と言っているようにも聞こえて、
あまり気分のいいものではない。地方出身者としては。
ついでに自分の地元は飯田氏が貶しの対象としている地方で、氏の母君と同じ
北陸だよ(笑)。

飯田氏の語る「田舎、住みにくいや」とか「地方のコミュニティのようなギスギスした
空間に囚われたくない」ってえのも結局主観で定性的な論議じゃねえのかよ、
コスト論議と関係ねえじゃん。ってまぜっかえしたくもなるわな。

あと飯田氏は一貫して公共事業には否定的で、金融政策主体の経済回復を
唱えているけれど、それって系統的には「ニュークラシカル」じゃないの?って思ったり。
ご本人は「ニューケインジアン」を名乗られてはいるが。
まあ別に新古典派の考え方を否定する気はそれほど無いんだけど。
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  posted at 2010/03/13 2:50:04
lastupdate at 2010/03/26 0:08:13
»category : 書評修正

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