» 「推理小説の誤訳」読了 | date : 2009/10/05 | |
古賀正義著「推理小説の誤訳」読了。 著者は英文学にも造詣の深い弁護士で、日弁連の副会長も勤めた重鎮。 その彼が、原書と訳本を見比べて、翻訳家の文章にいかに誤訳が多いかを検証 した本。 著者曰く、推理小説は論理的な思考を楽しむ小説だから、そこに誤訳が多いと 結末の解決で読者に正しい論旨を示せたのかどうか、大きな疑問が出てくると。 確かにその通り、今まで読んだ海外推理小説の中で、表現的に「おかしいな」と 思った事は自分の経験からしてもよくあることで、原書で読みこなす力がない 自分としては、プロの翻訳家にしっかりとやってもらわねばならんと思うところ。 弁護士の著者は英国の裁判制度にも知識が深いらしく、そのへんの用語に対する 誤訳の指摘は特に手厳しいが、それだけでなく、中学生レベルの慣用句すら時折 誤りを犯してしまう翻訳家の失敗を強く糾弾している。 自分が保守派の論客としてよく読んでる英文学者の福田恆存氏も、結構誤訳を 指摘されていてショック。 まあ誤訳に対する批判は誠にもっともであるが、著者が訳し直した文章に時折 読みづらさを感じてしまうのは、自分との世代の違いか? (古賀氏は1927年生まれとのこと。) いやいやこちとら乱歩も大阪圭吉も横溝正史も小栗虫太郎も読んでるわけだし、 そういう戦前生まれの作家の文章と比べても読みづらさは変わらないので、 著者の文章が古風だから、とは言ってられんような気が。 弁護士が本業で小説家ではないのだからと言ってしまえばそれまでだが、 ここまでプロの翻訳家を厳しく論評している以上、ご本人の文章も練って欲しい所。 「一再ならず」→「たびたび」でよくね? 「ごくつぶしを送る気味の悪い地方へ」 わかりにくい! 「流刑地のような悪所へ」 とかの方がよくないか? 「不得要領な調子で」 これも分かりにくい! 「あいまいな口調で」とかでいいやん。 そのくせ、自分の表現を棚に上げて、厚木淳氏訳の「少々トウが立ってるけど」 という表現を”古臭くて感心しない”とか言ってるし。それくらい普通に使う言葉だろ。 とまあ、一部には疑問もあったが、概ねためになる本ではある。 あと、全体的に読んでいて感じたことだが、著者が参照した複数の訳本の中で、 比較的正鵠を得ている訳文は女流の翻訳家に多いという事。 男性だと頭固すぎ、教条的過ぎて文章のニュアンスを汲み取ることに失敗しやすい のだろうか。TVの同時通訳とかも、女性の活躍が多いしね・・・。 |
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posted at 2009/10/05 22:33:49
lastupdate at 2009/10/06 2:16:05 »category : 書評 【修正】 |
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