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» 「人間の安全保障」読了 date : 2008/01/29
人間の安全保障」読了。
経済学者アマルティア・センの講義を単行本化したもので、
自分にとっては2冊目。

この本も、民主主義と人権思想について、その意義を検証した内容が語られている。
個人的には、その前に読んだ「貧困の克服」よりも、違和感を感じることが多かった。

「人権」という概念を、著者は普遍的価値観として証明するために、ベンサムの
功利主義を対立概念に置きながら、それを激しく非難している。
功利主義が、世の中、プラス方向に働く場合の総和を想定して考え出された
倫理概念なら、人権は、世の中がマイナス方向に動く際に、被害を軽減するための
倫理として規定しうる、という主張はなかなか説得力がある。
「人権」を、社会が後退局面に陥ったときの「セーフティネット」として扱うわけである。

ベンサムが「人権は人間が生ま落ちた時から既に保有している自然権ではなくて、
法制化されることによって初めて発露する恣意的なもの」
と規定したことについて、
センは、「功利主義が「効用」という倫理を前提にしたのと同様に、人権という
概念もまた倫理によって規定しうることを見落としている」
と攻撃している。

まあ、それはそれでいいんだけれど、問題は、「民主主義」「人権思想」が、
センの嫌う「権威主義的為政」に陥る可能性がある、という点だと思うのだが。
センの視野は、それを考慮に入れていないような気がする。

センは、
「人権は法制化によって確立するものではなく、自由な議論によって絶えず
検証され、その意義を確認されるものでなくてはいけない。
女性の家庭内における発言権は大事で、それを男女差別の思想の元に
抑圧される事は許されないが、それを法制化すると、夫が妻に相談しなかった、
という事実だけで提訴されてしまう可能性があるので、法制化に馴染むものではない。
人権思想と法制化というのは、密接な関係にはあるけれども、別物なのだ」
という論旨を展開している。けれど、恐ろしいのは、「人権」が
金科玉条になってしまうと、
「夫が妻に相談しなかった、という事実だけで提訴されてしまう」
という馬鹿な法律が出来上がってしまう可能性がある、という事だと思う。

「邪魔だ邪魔だ、どけどけーい、人権様のお通りだーい」というノリで、「人権」に
対する検証がなされなくなり、「人権」自体が、センの一番嫌う権威主義的政治体系
に取り込まれてしまう。

未だに民主制の確立していない世界の悲惨さを見てきているセンの実感からは、
そういった心配は出てきていないのかもしれないが、
「人権」がチャレンジャーであるうちは問題ないだろうけれども、
「人権」がチャンピオンになったときの弊害も考えるべきだと思う。
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  posted at 2008/01/29 22:54:21
lastupdate at 2008/01/29 22:57:05
»category : 書評修正

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