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» 「貧困の克服」読了 date : 2008/01/27
アマルティア・セン著「貧困の克服」読了。

インド出身のノーベル賞経済学者、アマルティア・センの、貧困問題に対する
講演内容を単行本化したもの。

自分は、民主主義もイデオロギーに過ぎず、イデオロギーである以上は
他の思想からの挑戦を受け、批判と監視に絶えず晒されなければならないと
思っているのだが、(これは評論家の呉智英氏の影響がでかいんだけれども)
これまでの経験では、皆、前提条件としての民主主義を無検証に信奉するだけで、
論理的な正当性を謳った文章にお目にかかったことがなかった。

この本は、
「民主主義的制度が比較的整備されている国家には、飢餓が起きない」
という明快な理屈でもって、民主制を擁護するセン氏の主張が書かれている。

比較的経済成長が順調だった中国の1950〜60年代において、大躍進政策の
失敗により三千万人が飢餓に陥った事実、
それよりもはるかに貧しかったジンバブエやボツワナが、1980年代の深刻な
食糧危機の際においても飢餓による被害を極小に抑えた事実。

順境の時には不必要とも思える民主制の意義が、国家の危機に対して
弱者のためのセーフティネットとして働きうるという主張は、正直個人的には
衝撃的だった。

通常、政治や経済が順調に運営されているときは、為政者がたとえ独裁であっても
各層に慈悲を行き渡らせ、大過なく国民を満足させることができうるが、
政経の後退局面においては、全ての層に満遍なく慈悲心を行き渡らせる事ができず、
下層民から順次切り捨てられていくという事を主張する。

民主制が完備されている国家では、たとえGDPが10%落ち込んでも飢餓による
死者を出すことはほとんどありえないが、それがない国では、たとえ10%未満の
GDP落ち込みであっても深刻な被害を下層民にもたらす。

これほど明快に、説得力溢れる言葉で、民主主義の正しさを主張する本を過去に
読んだ事がない。

また、民主主義的な価値観は、18世紀以降の時代の要請によって生まれてきた
もので、決して西洋文明の土壌で生まれたものではないこと、
儒教やヒンズー教といった東洋的価値観が、民主主義に対するカウンターには
なりえないこと、などなど、瞠目させられる主張がこの薄い冊子の中には
目白押しであった。

この本一冊を読んだだけで、民主主義の信奉者になった訳ではないが、
シンプルな事実の積み上げでもって、強力な民主制の擁護論旨を展開する
センの主張は、自分にとって結構ショッキングであったことは間違いない。
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  posted at 2008/01/27 19:23:28
lastupdate at 2008/01/27 19:29:19
»category : 書評修正

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