分子は電気的にはつりあっています。
もともと電気的につりあっている原子どうしが,
電子の出入りなしに(互いに共有し合うだけで)結合しているのですからね。
ところが,ひとつの分子の内部で,電子の偏り(かたより)が生じます。
共有電子対になった電子については,
電子は,激しく「動き回っている」ものでしたが,「共有電子対」になってしまうと,
2つの原子核からのクーロン力によって束縛されてしまうので,
電子殻上のどこへでもいける,というわけにはいかなくなり,
「最外殻が重なり合っているあたり」を中心として,動くようになります。
(共有結合)
ということでした。図示してみましょう。
2つの水素原子が共有結合して,水素分子 H2 を作っています。
灰色の部分は,共有電子対となった電子が動きまわれる範囲です。
これも「ロブ」と呼ばれます。断面は円形で,紡錘型をしています。
1番上の図は,2つの電子が,2つの原子のちょうど中間に
いるときです。このときには「偏り」は起こっていません。
2番めの図では,「ちょうど中間」ではありませんが,
どちらかに偏ってはいないですね。
しかし,3番めでは左側に,4番めでは右側に
それぞれ電子が「偏って」しまっています。
電子は常に動きまわっていますから,確率的に,3番めや4番めの状態,
つまり,どちらかに「偏って」存在することが多いと考えられます。そして,
この「電子が偏った状態」は瞬間的なもので,次の瞬間には,また違う
「偏り」が生じることになります。
今,ある瞬間に電子が右側に偏っていると考えましょう。
そうすると,右側の水素原子は,原子核のまわりの電子の密度が大きくなります。
その結果,右側の水素原子は,わずかですが−の電気を帯びることになります。
一方,左側の水素原子は,逆に原子核のまわりの電子密度が小さくなります。
その結果,左側の水素原子は,わずかに+の電気を帯びることになります。
こうして,ひとつの水素分子の内部で瞬間的な電子の偏りが起こり,
一方の水素原子がわずかに+に,他方の水素原子がわずかに−に
電気を帯びた状態が(瞬間的に)生じます。
δ+H−Hδ-
δ+(デルタプラス)・δ−(デルタマイナス)は,わずかに+・わずかに−の
電気を帯びている,という意味の記号です。
水素分子がたくさんあれば,このように,
(瞬間的に)分子内でわずかに+−が偏った分子があちこちにあるわけですから,
分子相互の間に,わずかですが,(瞬間的に)クーロン力がはたらきます。
…δ+H−Hδ-…δ+H−Hδ-…δ+H−Hδ-…
このようにして,分子間にはたらく(瞬間的な)クーロン力が,
分子どうしを結びつける「力」であり,
これを「ファンデルワールス力」と呼んでいるのです。
こんな「力」ですから,ファンデルワールス力は弱い力であることは,
すぐにわかりますね。