蒸気圧


 真空容器に液体の水を入れたと考えよう。水は激しく沸騰しながら気化して,気体の水,水蒸気に変わることは想像できるだろう。では,容器に入れた液体の水は「すべて」気体に変わるのだろうか。それとも,どこかで気化が止まって,液体の水と気体の水が同時に存在するようになるのだろうか。

 これは,容器の容積や,入れられた水の量によって状況が異なる。容器が十分に大きく,また,入れられた液体の水の量が少なければ,水はすべて気体に変わってしまう。しかし,容器の(言い換えれば,液体の水の上にある空間の)体積に限りがあり,さらに,液体の水の量がそれなりに多ければ,気化する水の量には限りがあり,最終的には液体の水と気体の水が共存することになるのである。

 言い換えれば,液体の水の上にある(液体の水に接している)空間の体積により,また,そのときの温度により,その空間に気体として存在できる水の量には限度がある,ということである。

気−液平衡

 そして,気化して気体となった水の量がその限度に達すると,それ以上は気体として存在できなくなり,それを越える水は,再び液体に戻るのである。
 つまり,空間に存在する水蒸気の量が限度に達すると,「気化が止まる」のではなく,気化して気体になる水の量(分子数)と,凝結して液体になる水の量(分子数)が等しくなる,ということである。
 その結果,空間に存在する水蒸気の量は一定となり,見かけ上,気化は止まる,のである。
 たとえば,左図では,気化する粒子も凝結する粒子もあるが,空間にある気体粒子の数は常に8個である。
 こういう状態を,気体と液体が「平衡状態」にある,あるいは「気−液平衡が成立している」という。

 空間に存在できる水蒸気の量(飽和水蒸気量)は温度によって決まっている。そして,空間に存在する気体の量(粒子数)は,気体の圧力として表すことができるので,気−液平衡が成立しているときの水蒸気の量は,その温度における水蒸気の圧力(飽和水蒸気圧,あるいは単に水蒸気圧)で示す。
 上の図の状況で,容器の上部に口を作って外に気体を吸い出したとすると,外に出た気体粒子の数だけ液体が気化して気体粒子を補充するので,容器内に液体が残っている限り,空間にある粒子数(すなわち蒸気圧)は一定である。

 以上の考え方の中では,空間の体積を問題にしていたが,現実の大気中でのことを考えれば,今まで考えてきた「空間の体積」は,現実には地球大気の体積であるから,事実上無限大とみなしてよい。その結果,蒸気圧は,液体の量や蒸気の占める体積に関係しないことになる。また,他の気体が存在しても変わらない。たとえば,水の蒸気圧は,一定温度下であれば,真空中でも空気中でも同じである。

 ここで,コップの水が蒸発することについて考えよう。


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