文研の名作ミステリー8 「水晶のせん」モーリス・ルブラン作、長島良三訳

文研のミステリ総ざらい、残るはあと3冊。八巻目は「水晶のせん」。
モーリス・ルブラン作、長島良三訳。イラストは関敏男氏。

以下あらすじを裏表示から。

「政界のスキャンダルをあばく、
重要書類のひめられた
水晶のせんをめぐる、
怪盗ルパンと悪党代議士が
その知力をつくしてたたかう。
そして秘密をもった美女が、
ルパンのまえにあらわれて、
ほのかな愛情をいだくルパン。
冒険とロマンにみちた
ルブランの名作!!」
 

  

八巻目はおなじみの怪盗ルパンもの。定番ではあるが、こういった全集には確かに欠かせない主人公である。
本作は珍しくルパン一味の失敗から始まり、それを挽回すべく奮闘するルパンの活躍を描くストーリーとなる。
特に、警察に捕らえられて獄に落とされようとする手下を、何とかして救い出そうとするルパンの真摯な努力が印象的。
これに悪徳政治家と美女が絡んできて変化に富んだストーリーが展開されるのだが・・・・・印象が薄い。

まあ自分が元々ルパンものをあまり好いていない、という事実もあるのだが、どうも、訳がよろしくない。
ジュブナイルであることを強く意識しすぎて、より子供向けというか、幼い相手に話して聞かせるかのような文章になってしまっている。

他の巻が、なるべく解りやすいようにと文章をリライトしながらも、決して子供じみた内容にはなっていないのに対し、本書はあからさまに児童向けとなっており、その点が通読する際にいささか興をそいでしまう大きな原因となっている。

特に会話文が最悪で、ルパンに「ようし、きょうこそ正体をみやぶってやるぞ」とか言われると、読んでるこっちのテンション下がりまくり。

ゆえに、キャラのイメージとしてダンディでエレガントなはずのルパンが、あまり柄のよろしくない窃盗団の人情親分と化しており、既成のイメージとは随分かけ離れてしまっている。
いわゆる世間一般に流通している、颯爽としたルパン像と重ね合わせることが難しい。

イラストの出来は非常によく、一般的なルパンのイメージと違わぬダンディさで雰囲気を盛り上げてくれているのに対し、文章がこれではちょっと面白くない。

このシリーズは名訳が多いと思うのだが、本作は例外的に訳が気に入らなかった。

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