文研の名作ミステリー5 「マルタの鷹」ダシール・ハメット作、福島正実訳

文研の名作ミステリー総ざらいシリーズ、本日も行きます。
第五巻「マルタの鷹」。ダシール・ハメット作、福島正実訳。
イラストは桜井一氏。この人のイラストも色々な所で目にする。

では裏面表紙からあらすじを。

「ある男の尾行をたのまれたスペードは、
相ぼうのアーチャーにまかせたが、
その夜、アーチャーは死体となって発見された・・・・・・。
つぎの日、カイロと名のる東洋人があらわれて、
黒い鷹の彫刻をさがしてほしいという。
鷹の彫刻とはなにか?
なぞの鷹の彫刻をめぐって、
つぎつぎと事件がおきていく。
推理小説の新しい作風、
ハードボイルドの生みの親、
ハメットの代表作!!」
 

  

これまでの四冊が、本格、本格、古典、本格と来て、やや偏り気味だった分野傾向のところ、ここでハメットの代表作、「マルタの鷹」を持ってきてハードボイルド小説をラインナップに加えた。

登場する探偵は言わずと知れたハードボイルドの元祖的存在、サム・スペード。

正直、推理小説を読み始めた小学生の頃から本格推理に傾向していた自分は、本書を読んだ当時の感想としては、大のお気に入り、とは行かなかった。
サム・スペードはぶっきらぼうで暴力的だし、出てくる連中も悪党、警察を問わず荒っぽい輩ばかり。知性煌めく探偵の名推理に魅せられていた当時の自分としては、いまいちピントがずれているようにも感じられたのだが。
ただ、全然面白くなかったかというとそういう訳でもなくて、それなりに物語を堪能した記憶はあるのだが、シンクロ二ティはあまり高くなかったようだ。

今回、蒐集の過程において本作も入手後再読してみたのだが、
「これ、面白れぇ・・・」
二転三転する状況は手に汗握るアクション活劇のようだし、それら連続する危機的事態に対しても、冷静かつタフに対処していくサム・スペードは非常に魅力的。
登場する女性達は、善良であれ奔放であれ、皆可愛らしくコケティッシュだし、敵方にも愛嬌があって憎めない奴がいたり、冷徹で憎ったらしいボス級もいたりとバラエティに富んだキャラ立ちで自分を全く飽きさせなかった。

終盤の結末も本格推理のように意外な真相、という訳でもないが、ちょいと捻りが入れられて気が利いている。

引きの強いストーリーの面白さに、ラストまで一気に読了させられてしまった。

またジュブナイル向けに一般の小説を翻案すると、余計な文章を出来るだけ端折って編集される事になるのだが、ただでさえ無駄な描写の少ないハードボイルドをさらに削っていくと、剃刀のように研ぎ澄まされた一級の硬質な文章が出来上がる。
ハードボイルとこの手のジュブナイルは案外相性がいいのかもしれない。

一般向け未読だが、これはこれで非常に完成度の高い作品なのではなかろうか。あまり本を読む時間のない人に薦めてもいいかも知れない。ってこのシリーズは古本で買うしか入手手段がないけどさ(笑)。
 

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