文研の名作ミステリー4 「Yの悲劇」エラリー・クイーン作、内田庶訳

文研の名作ミステリー総ざらいもこれで第四巻。
タイトルは「Yの悲劇」、エラリー・クイーン作、内田庶訳。イラストは畑農照雄氏。
本文中のイラストは普通のペンタッチだが、表紙と裏表紙は迫力の切り絵風。
どちらにも女主人のエミリー老婦人と思われる人物が描かれており、異様な雰囲気で読者を威圧する。

いつもどおりあらすじは裏表紙から。

「ヨーク・ハッターが自殺した?
それがハッター家の
悲劇のはじまりだった―。
むすめの飲み物に毒が入れられ、
いたずらこぞうがそれを飲み、
おにばばあが殺された。
かつての名優ドルリー・レーンも、
おそろしい劇をだまって見ているだけだった・・・・・・。
アメリカ・ミステリーを代表する
エラリー・クイーンの名作中の名作!!」
 

  

仮面ライダーディケイド風に言えば、「今度はドルリー・レーンの世界か」と言った所。
第四巻ともなれば真打ち級の作家が登場、エラリー・クイーンの代表作が取り上げられた。
もう一つの代表作である国名シリーズを外し、ドルリー・レーンを持ってきたのは本全集の全体を統一する重厚な雰囲気を維持せんがためか。国名シリーズは、やや理知的に過ぎる嫌いがある。
しかし、本作も子供に向けていいのかどうか、微妙な作品だよなあ(笑)。
一家揃ってアレだし、ラストも厳しすぎるオチだし。
いやいや、こういう劇薬こそ子供に飲ませるべき!(笑)

本ジュブナイル版でカットされるのは、ハッター家の出自とか財力といった前提条件のところで、とにかく、「ニューヨークの真ん中にハッター家ってでっかい家があって、そこの当主が亡くなったよ」というところから物語がスタートする。
だから、「なんでこんなに家族の多い一家が都会の真ん中でデカい家に住んでんだ?」と疑問符から始まるのだが。

しかしその後の事件発生から解決篇までは、ほとんど端折られる事もなく、あの超有名な肝のトリックも、ハッター家の内情も、衝撃のラストまで一部始終水も漏らさず語られる。子供向けなのに、ぶっちゃけ過ぎ(笑)。

特に、肝のトリックに関しては、一般向けの小説版が奥歯にモノの挟まったような表現しかできていないのに対して、ジュブナイル版である本書はその事を逆手に取って、スッパリとした表現で終わらせているので逆に分かりやすい。

しかし、犯人の行動の解説部分で重要な点が一箇所欠落しており、そこがラストの結末を解りにくくしているという、かなり大きな瑕がある。この部分をもうちょっとスムーズに説明できれば、より良い訳になったと思うんだが。

ともあれ、本書自体は自分が小学校の図書室から借りて読んだ時も、従弟が購入した本書を再読したときも、その物語の面白さにグイグイ引き込まれた覚えがある。

それだけに、一点の瑕瑾がもったいない。クイーンの小説は理詰めで隙のない作風ゆえ、一箇所でも謎解きを省略すると途端にわかりにくくなるという事がよく分かる。
 

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