文研の名作ミステリー3 「黄色い部屋の秘密」ガストン・ルルー作、榊原晃三訳

続けます「文研の名作ミステリー」書評シリーズ、第三巻は「黄色い部屋の秘密」。
ガストン・ルルー作、榊原晃三訳。イラストは浅賀行雄氏。

例によってあらすじは裏表紙から。

「犯人はどこからはいって、
どのようにしてにげたのか?
完全な密室の「黄色い部屋」で
令嬢が何者かにおそわれた!
つづいておこる事件になぞはふかまる。
若い事件記者、ルルタビーユと
パリ警視庁の探偵ラルサンの対決のうちに、
意外な事実がうかびあがってきた。
フランス推理小説を代表するルルーの傑作!!」
 

  

カー、クリスティと英米の黄金期本格に続いて、第三巻にはこの手の全集に定番のフランスの古典、「黄色い部屋の秘密」を持ってきた。
ガストン・ルルーといえば、本格ミステリとして語るに足る小説はこの一作しか書いておらず、世間一般にはサスペンス、スリラー作家としての方が、むしろ有名かも知れない。そちらの方の代表作、「オペラ座の怪人」は何度も舞台化や映画化されている。

しかし、それでもミステリファンから本作が金字塔とされているのは、当時としては非常に斬新だった密室トリックの妙にある。

今となっては別段珍しくもない類いのトリックではあるが、それら密室トリックの総本家としての功績は、全く揺ぎないものがある。

本ジュブナイルでも、特徴的である肝のトリックは過不足なく説明され、当時のファンを驚かせた真相はしっかりと書かれている。加えて、異能の記者であるルルタビーユと、腕利き捜査官ラルサンとの推理合戦もつばぜり合い激しく、各々のキャラも原作どおりちゃんと立てられている。

エンディングがやや唐突で後に微妙な余韻を残してしまうものの、「黄色い部屋」のエッセンスや筋書き、登場人物のキャラ立てともにしっかりと残ったなかなかの名訳だと思う。

但し、本作自体は古典に属する小説なので、ある程度ミステリを読みこなした経験のある人には古臭すぎると感じるかもしれない。まあ、それは一般向けの文庫でも同じことなのではあるが。
 

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