文研の名作ミステリー2 「ABC殺人事件」アガサ・クリスティ作、各務三郎訳

需要なしでどんどん続きます「文研の名作ミステリー」総ざらいシリーズ(笑)、第二巻は「ABC殺人事件」。アガサ・クリスティ作、各務三郎訳、イラストはこちらもなかなかのビッグ・ネーム、ウノ・カマキリ氏。

あらすじは裏表紙から。

「「六月二十一日、アンドーバーを警戒せよ!
                        ABC」
エルキュール・ポワロに挑戦状がとどいた。
六月二十一日、アンドーバーで、
アッシャー夫人(A)が殺された。
つづいて、七月二十五日、ベクスヒル海岸で、
バーナード(B)の死体が発見された。
ABC順に、つぎつぎにおこる殺人事件。
犯人ABCの正体は?
ミステリーの女王、クリスティの代表作!!」
 

  

カーについては、フェル博士やH・M卿を外して、敢えてバンコランものを持ってきたこのシリーズであるが、第二巻では、クリスティのど真ん中、代表作の「ABC殺人事件」をラインナップに持ってきた。探偵もミス・マープルと並んで女史のメインキャラであるエルキュール・ポワロ氏登場である。

自分が正しく初めて読んだ本格推理小説で、この本にやられなければ、この歳になるまでミステリーを読み続けていないだろう。個人的には記念碑的な本。

ジュブナイルとして記述の簡素化はあるが、A,B,Cと推移していく事件のあらましを丁寧に追いかけ、原作にある手がかりやヒントはきっちり網羅、犯人を指摘するポワロの推理も文章平易ながら極めてスムーズで分かりやすい。

最初にこの本の結末を読んだ時、それまでに既読のシャーロック・ホームズものや怪人二十面相ものと違って、ポワロの推理の鮮やかさにガーンと衝撃を受けた覚えがある。「うわぁぁぁあ」と声を挙げてしまったような記憶が。読者の手前に晒された材料を以って、事件の解決を指し示すという典型的な本格推理小説の手法に、初めて触れたという事が大きかった。

無論、推理小説の通史としても「ABC殺人事件」は一級品の名作に数えられているので、話の面白さ自体は折り紙付きな訳ではあるが。

反面、エルキュール・ポワロ独特の洒脱で粋な言動、緊張感を緩和するようなとぼけたキャラ造形はばっさりと割愛され、単なる有能な捜査マシーンになってしまっている感じがする。
こういったキャラ造形を文中差し挟むには、ジュブナイルでは文字数に制限があって難しいのかも知れないが。そういったポワロのとぼけた妙味を堪能するにはハヤカワや創元といった一般向けを読んだほうがいいだろう。

しかし、本格推理の名作としての骨子は、このジュブナイルにも十分残されており、それだけに少年時の自分が深く感動した逸品になっていると思われ。
 

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