文研の名作ミステリー10 「バスカビルの魔の犬」コナン・ドイル作、白木茂訳

ようやく最終巻までたどりついた文研の名作ミステリー総ざらい、掉尾を飾るは「バスカビルの魔の犬」。コナン・ドイル作、白木茂訳。イラストは伊坂克二氏。

では裏表紙あらすじを。

「黒い岩山がつらなり、
生きた馬さえものみこむ底なしぬま。
このぶきみなあれ野に、
バスカビルやしきが建っていた。
むかしからやしきにつたわる
火をはく魔の犬の伝説。
バスカビル家の主人が
とつぜん死んで、そのそばには
魔の犬の足あとがあった。
名探偵ホームズの推理は・・・・・・。
推理小説の古典、
コナン・ドイルの最大傑作!!」
 

  

最後の十巻目には、最大のビッグネームであるシャーロック・ホームズを入れてきた。
しかし、「バスカビルの魔の犬」が大トリというのは、ラインナップとしてどうなのか、と見る向きがあるかも知れない。

なんせ昨今の風潮では本作をバカミスに分類する傾向もあり(バカミスは貶し言葉ではないが)、ホームズものには長編よりも中短篇に名作が多いということで、「なんでバスカビルやねん」という感じが確かにしないでもない。

基本的に中短編は除外して長編をラインナップする本シリーズとしては、ホームズものの代表長編と言えば本作を選ばざるを得ないところ。やむを得ずと言った風情か。

特にバカミス扱いされている主因が、例の魔の犬で、今となっては失笑モンのトリックと呼ばれているが、個人的にはあれは有りだと思っている。

ミステリとしては古典に入るがゆえに推理小説としての骨子も粗雑で、後世の作家たちのような緻密さはなく、まだまだ発展途上を感じさせる内容ではあるが、大時代的なゆったりとした流れと、ホームズの切れる推理を堪能する分には本書も魅力十分だと思っている。真犯人は中盤でホームズ自らがさっさとネタばらししてしまうが(笑)。

また、ミステリとしての評価はそれほど高くないものの、原作では荒涼としたイングランドの原野風景がよく描かれており、それが本作の文学的価値を高めていると言われているが、本書もジュブナイルながら、その描写のエッセンスを十分に留めており、異国の人外の地を想像させてくれる良い叙景詩になっている。

当時の自分は本書をかなり手に汗握って面白く読んだ記憶があり、今回再読しても「え? ここで犯人バレるんだっけ?」と思った(笑)以外は、やはり今でも面白く感じる事が出来た。

まあ、「赤毛連盟」とか「四つの署名」とかの方が出来は上かも知れんが冒険活劇として見れば「バスカビル」もかなり面白い部類に入ると思うのだ。
 

さてさて、これにて文研の名作ミステリー十巻総ざらい、幕引きと相成りまする。十巻というのは他社のジュブナイルシリーズに比して少ない冊数なのだが、本シリーズは、イラストや選定小説の独特さで異彩を放っていたという事が、多少なりとも解って頂けたかと。
興味を持たれた小説ありましたら、ハヤカワや創元等の一般向けでも結構なので手にとってもらえると本懐。

ここまでお付き合いいただいた方、コメント戴いた各氏に深く御礼申し上げます。
 

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