嘘・冗談01

目の前のペットボトルが室内温度との差に冷や汗をかいている。

「不動が、お前とキスしたいって言ってたぞ。飲んだ時」
 源田が目の前で真剣な顔で伝えてきた。
 意図と意味がわからず、しばらくだまっていたが、源田の「佐久間」という呼びかけに、ハッとして目を見開く。
「なんで、そんな冗談を、不動が」
 酔っ払ってとち狂いが倍増しだな、と続けると源田が「あれは冗談という顔ではなかったがな」と小さく唇が動いた。
 冗談じゃなければ、何なんだ、真剣な顔してそんなことを源田に伝える”不動”という男は何なんだ。
「不動のやつ、佐久間とキスしたいって言った後に、この俺で練習したいとか言い出した」
「源田を練習台に・・・?やっぱり不動、あいつ飲むとダメだな。ろくでなしになる。だいたい、なんで男同士でそんなことになるんだ。女子高生でもあるまいし」
 源田は、そうだ、冗談だ、といわんばかりにやや破顔して「そうだよな、男同士だもんな」とフッと笑った。いかにも女にモテそうな目の細め方。相変わらずの美丈夫。
「ところで」
 源田がまっすぐ見つめてくる。
「ところで、佐久間は不動から本当に”そう”いわれたらどうするんだ?」
「そうって?」
 いや、ほら、キスしたい、とか。と源田の口元がもごもごして歯切れ悪い。
「不動にキスしたいといわれたら、だ。」
「う〜ん、・・・まぁ、キスくらいされてもいい、かも」
 それを聞いた源田が、一瞬驚いた顔をしたが、すぐに普段の顔にもどって「佐久間も冗談が言えるようになったんだな」と鼻で笑った。
「冗談?冗談じゃねぇよ」
 源田の顔色が変わる。真剣に、心配するような深刻さを示す眉の間。
「大嘘だよ。不動にそんなこと言われたら、秒で殴るにきまってんだろ?源田」
 笑って源田の脇を肘で小突くと、源田は俺の背中を軽く2回叩いて、「嘘はよくない」と目の前の容器が結露した冷たいペットボトルの飲み口に口をつけた。

 嘘はよくない?だと?
「源田、どういう、意味だ」
 意図と意味がわからず、冷や汗が、でる。

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