木枯し紋次郎

紋次郎と私

 こそこそと昨年からの懸案、木枯し紋次郎のページを開始(笑)。ビデオテープ引っぱり出して、作品のチェックなどしてみたが、意外と録画もれがあったりして資料集めが難航している。この作品には思い入れが強すぎて、かえって執筆がしづらい。

 じつはTVシリーズ主演の中村敦夫氏は筆者の遠縁にあたる。もっとも遠縁も遠縁で向こうはこちらの存在など、全然ご存知ではないだろうし、それを知ったのも成人してからのことだが。しかしこのことを幼いときに知っていたら、筆者が小学校で紋次郎風を大いに吹かしたのは確かだろう(笑)。
 それで威張っていたら、子供には格好悪い赤井剣之介役で中村敦夫氏が必殺に登場。今度は苛められたりして(笑)。いやそれともキケンな「おしどり右京捕物車」ごっこを悪ガキに強要されて、大ケガということも十分有り得たか・・・・

 閑話休題。やはりこの木枯し紋次郎は子供時代からのヒーローであり、理屈を越えた魅力のあるキャラクター。長じてバイクでツーリングなどするようになってからも、紋次郎の足どりをたどるかのように関八州ばかり旅してきた(まあ根性と金がないので一泊二日ツーリングが関の山であるというのが真実だが)。

 この作品だけは、ストーリーそのものの魅力というよりも、全体に流れる無常観の中の詩情。旅情さそう美しい日本の田舎の風景というものが大きい。演じる中村敦夫氏の孤独な感じであるとか、そういうあまり言葉にならない要素が、監修市川崑監督の素晴らしい映像、市川崑夫人である和田夏十作詞、小室等作曲による主題歌で表現されている。しかし最近の再放送では息を飲むほどの美しさであったタイトルバックも赤くくすんでしまい残念である。このあたりは16mmフィルムの限界であろうか?
 「帰ってきた木枯し紋次郎」撮影時の中村氏のコメントに35mmフィルムで撮影すればハイビジョンで半永久的に保存が可能とあるのも気になる。もしかしてあのシリーズの映像美は失われつつあるのだろうか?心配である。
 原作小説は一話完結の推理小説仕立てなので笹沢左保氏は執筆に大変な苦労をされたという。


市川崑劇場 木枯し紋次郎

 フジテレビ、C.A.L製作の本家TVシリーズ。放映は第一シーズンが72年の元旦に始まって、3月の中断をはさんで5月まで全18回。第二シーズンは72年11月から翌年3月まで全20回。じっくりロケハンした古い日本の風景が印象的。笹沢左保氏の原作に忠実な脚色がなされている。
 必殺仕掛人とのライバル関係が有名だが、仕掛人第一回放映時の視聴率は25%対15%で紋次郎の圧勝。それにしてもビデオのない時代にこのマッチメークとは・・・当時の時代劇ファンは悩んだろうな。以下スタッフキャストの判明した作品だけでも挙げておこう。
 しかしどれも凝ったタイトルで原作者笹沢左保氏の苦労が伺える。

第一シーズン

川留めの水は濁った 脚本久里子亭 服部佳 監督市川崑 ゲスト小川真由美 小池朝雄
 記念すべきシリーズ第一回である。冒頭の賭場のシーンが印象深い。リアリズム溢れる渡世人の世界が、芥川隆行の名調子とあいまって、時代劇ファンにはいやがおうでも期待させられるのである。義兄にあたる小池朝雄を叩き斬ることになる紋次郎。彼を間引きから救った姉は嫉妬深いこの男に殺されていた。笹沢氏の原作ではこの前に「赦免花は散った」というのがあるのだが、これはテレビでは未映像化。映画の第一作はこの「赦免花は散った」がもとになっている。

地蔵峠の雨に消える 脚本 鴨三七 監督市川崑 ゲスト宇都宮雅代 高橋長英
 このエピソードも有名。瀕死の渡世人(高橋長英)を助けたことが徒となる紋次郎。

峠に哭いた甲州路 脚本 鴨三七 久里子亭 監督市川崑 ゲスト黒沢のり子 原田芳雄 加藤嘉
 この顔ぶれは豪華だ。原田芳雄は中村敦夫が俳優座で造反したときの同志。中村敦夫が参謀で原田芳雄が首領だったらしい(笑)。ご両人は池広一夫監督「無宿人御子神の丈吉・牙は引き裂いた」でも共演なさっている。今回の対決はあっさり決着がつくのでちょっと勿体ない印象がある。ラスト、瀕死の黒沢のり子をおぶった紋次郎。湯浅譲二の音楽が流れ、山かげがゆっくり横切るショットは何度見ても凄い。

女人講の闇を裂く 脚本服部佳 監督窪川健造 ゲスト藤村志保

童唄を雨に流せ 脚本鴨三七 監督池広一夫 ゲスト香山美子 工藤堅太郎 ちょっとこの回の紋次郎の行動はきれい事過ぎるかな?

大江戸の夜を走れ 脚本山田隆之 監督国原俊明 ゲスト安田道代 菅貫太郎 桜井浩子 大泥棒十六夜為吉の正体はいかに?ってこのキャスティングじゃバレバレか(笑)。ロコさんこと桜井浩子はちょい役でもったいない。

六地蔵の影を斬る 脚本山田隆之  監督森一生 ゲスト佐藤允

一里塚に風を断つ 脚本山田隆之 監督大洲斉 ゲスト扇千景 二木てるみ 土屋嘉男 川合伸旺 この作品のクライマックスの殺陣で中村敦夫がアキレス腱断裂全治一ヶ月。次の回の放映後、一ヶ月間の放送中断。せっかく付いた視聴者を逃すのは惜しいということで、『笹沢左保股旅シリーズ』と銘打って単発ものの時代劇が放映された。たった四回のシリーズだが、主演は高橋悦史や川津祐介といったシブイ顔ぶれ。機会が有れば見たいものである。
 なおこの作品が放映された72年2月19日には浅間山荘事件が勃発。日本中がその中継に釘づけになった。中村紋次郎はいいときに休みをとったのかもしれない。

湯煙に月は砕けた 脚本大野靖子 監督池広一夫 ゲスト長谷川明男 扇ひろ子
 次の回が温泉治療の話というのは単なる偶然なのか? アキレス断裂の中村敦夫をいたぶる狂犬長谷川。「俺は曲がらねぇって聞くとてこでも曲げたくなる性分なんだ・・・」と紋次郎の足を無理矢理曲げる強制治療。なぜかその荒療治が効果的で、全快した紋次郎に叩き斬られる姿は素晴らしい。

土煙に絵馬が舞う 脚本大藪郁子 監督手銭弘喜 ゲスト常田富士男 青柳美枝子 四月になってシリーズ再開。しかしこの頃のテレビ番組は本郷ライダーなど事故が多い。それだけ危険な撮影が強行されていたということだろうか。

龍胆は夕映えに降った 脚本鴨三七 久里子亭 監督大洲斉 ゲスト川地民夫 近藤宏

木枯しの音に消えた 脚本服部佳 監督出目昌信 ゲスト十朱幸代 戸浦六宏 荒木一郎 左とん平
 木枯し紋次郎の長楊枝の秘密が今明かされる(笑)。本シリーズ随一の傑作。まあこんなきれいな宿場女郎はいないだろうが。紋次郎にダブル攻撃を仕掛ける兄弟(荒木・戸浦)のキャラクターも面白い。自分のことは忘れてくれと言う十朱幸代に紋次郎が言う最後のセリフは泣かせる。
「おめぇさんのことは思い出しもしねぇが、忘れもしやせん。」

見返り峠の落日 脚本服部佳 監督窪川健造 ゲスト市原悦子 小松方正

水神祭に死を呼んだ 脚本大藪郁子 監督国原俊明 ゲスト田崎潤 寺田農
 田崎潤が演じる渡世人の末路。

背を陽に向けた房州路 脚本大藪郁子 監督土屋啓之助 ゲスト浜田寅彦 光川環世

月夜に吠えた遠州路 脚本鴨三七 監督太田昭和 ゲスト有川由紀 新田昌玄 郷英治

無縁仏に明日を見た 脚本白坂依志夫 大藪郁子 監督土屋啓之助 ゲスト穂積隆信 野川由美子

流れ舟は帰らず 脚本大野靖子 久里子亭 監督市川崑 ゲスト上条恒彦 吉田日出子 ラストの保津川峡に掛けられた橋の炎上シーンは見物。第一シーズン最終回である。

第二シーズン

馬子唄に命を託した 脚本鴨三七 監督鍛冶昇 ゲスト新藤恵美 三益愛子 山本麟一

暁の追分に立つ 脚本大藪郁子 監督真船禎 ゲスト浜村純 横山リエ 渡辺美佐子 老盗賊の執念にほだされた紋次郎のおつかい(笑)。当然強欲な人たちが襲ってくる。

水車は夕映えに軋んだ 脚本鴨三七 監督鍛冶昇 ゲスト大原麗子 加茂さくら 悠木千帆(現樹木希林)
女を殺すドスはもっちゃおりやせんと、面白い方法で悪女麗子を始末する紋次郎。

夜泣石は霧に濡れた 脚本大藪郁子 監督小野田嘉幹 ゲスト平田昭彦 渚まゆみ 同郷の渡世人、片目の勘八との対決。こんにゃくで間引きされかかった紋次郎が、飢饉で米が取れない村で行く先々、こんにゃく責めに遭う。そういえば群馬あたりをツーリングしていると、こんにゃくの看板ばかりである。確かマンナンライフの工場まである。

地獄を嗤う日光路 脚本大藪郁子 監督土屋啓之助 ゲスト緑魔子 川辺久造 垂水悟郎

女郎蜘蛛が泥に這う 脚本菊島隆三 監督大洲斉 ゲスト北林谷栄 寺田農 これは北林谷栄の鬼婆がひたすら怖い。

海鳴りに運命を聞いた 脚本服部佳子 監督大洲斉 ゲスト早瀬久美 河津清三郎

獣道に涙を捨てた 脚本橋本綾 監督中村敦夫 ゲスト鰐淵晴子 ケンサンダース 阿藤海 桑山正一 加藤嘉 問題の大疾走殺陣シーンは現役ラガーたちを使って、亀岡市郊外で撮影された(森田富士郎氏のキャメラ)。大移動撮影でチラリと鉄柱が映るのもご愛嬌か。これは撮影でケガするのも頷ける。このとき中村敦夫氏は32歳である。

錦絵は十五夜に泣いた 脚本大野靖子 監督森川時久 ゲスト小山明子 光川環世

飛んで火に入る相州路 脚本服部佳子 監督太田昭和 ゲスト吉田日出子 内田勝正

駈入寺に道は絶えた 脚本鴨三七 監督森一生 ゲスト江夏夕子 

九頭龍川に折鶴は散った 脚本服部佳子  監督安田公義 ゲスト赤座美代子

怨念坂を蛍が越えた 脚本鴨三七 監督大洲斉 ゲスト太地喜和子 高橋長英

明鴉に死地を射た 脚本佐々木守 監督森一生 ゲスト日色ともゑ 菅貫太郎
 実は妹のほうが剣豪だったというどんでん返しには驚く。しかし菅貫は良く出演するナア。

木っ端が燃えた上州路 脚本小倉隆夫 監督太田昭和 ゲスト西山恵子 高田直久

和田峠に地獄火を見た 脚本菊島隆三 監督三隅研次 ゲスト市原悦子 神田隆

雪に花散る奥州路  脚本服部佳子 監督土屋啓之助 ゲスト 新橋耐子 松村達夫 戸浦六宏 大林丈史 ニセ紋次郎と雪原で対決。

雪燈籠に血が燃えた 脚本高橋玄洋 監督安田公義 ゲスト宇都宮雅代 長谷川明男 またもや長谷川明男は息子を手に掛ける極悪人役である。

冥土の花嫁を討て 脚本大藪郁子 監督鍛冶昇 ゲスト樫山文枝 横光克彦 蟹江敬三 仇討ちの若侍(横光)の面倒を見る紋次郎。やがてこのふたりが当選、落選と明暗を分けることになろうとは・・・(笑)
 後半は密室と化した山小屋でのサスペンス劇。女を殺すドスは持たねぇと言いながら、三人目のおんな殺し。

上州新田郡三日月村 脚本鴨三七 監督大洲斉 ゲスト嵐寛寿郎 目深に被った三度笠は雨と風に晒されて黒っぽく変色している・・・と芥川隆行のナレーションを冒頭じっくり聞かせる最終回。雷に打たれて三日月村に舞い戻る羽目になる紋次郎。アラカン扮する老盗賊泥亀との心の交流と対決。すぐにでも再開されそうなエンディングであったが、紋次郎ファンは新木枯し紋次郎まで四年以上待つことになる。


東映製作の映画作品

両作品とも東映ビデオからビデオが出ている。

「木枯し紋次郎」(72東映中島貞夫監督)

残念ながら未見だが、原作の笹沢氏が斬られ役で出演というのが気になる。連載当時の岩田専太郎氏画の挿し絵のイメージなど菅原紋次郎の方が原作イメージに近いらしい。

「木枯し紋次郎関わりござんせん」(72東映中島貞夫監督)

 問題作(笑)。死んだ姉(市原悦子)が登場して、紋次郎(菅原文太)に迫る。色んな意味でヤバイ作品だが、この救いの無さ、後味の悪さは中島貞夫監督の持ち味が十二分に出ているのではないか。勿論TVシリーズの旅情などは一切無い(笑)。待田京介と田中邦衛が演じる義理堅い渡世人に、東映任侠映画の伝統が感じられ興味深い。なお脚本担当は必殺シリーズでお馴染みの野上龍雄氏。ひょっとしてこれは完全にオリジナル作品で、タイトル通り関わりござんせんと原作小説に三行半を突きつけたか?


新木枯し紋次郎

 この東京12チャンネル(現テレビ東京)放映(77.10.5〜全26回)のシリーズは、BS2で放映されたので御覧になった方も多いだろう。美しい田舎の風景はこのシリーズの撮影時完全に失われ、陰惨な人間模様だけが目に付くという印象がある。
 そのため、必殺紋次郎とかマカロニ紋次郎という雰囲気があるが、製作はC.A.L、京都映像。そしてナレーションは芥川隆行とれっきとした正統派続編である。福田善之らが参加した脚本は充実しているし、神代辰巳、藤田敏八と超一流の監督が参加。今をときめく大林宣彦監督のタイトルバックにも注目である。やしきたかじんの主題歌「焼けた道」も名曲(演歌臭がきついというお方も有ろうか)。林与一、大谷直子らの超豪華ゲスト陣も見所。

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帰ってきた木枯し紋次郎

 久々に市川崑監督で復活した劇場用作品。坂口良子のヒロインのキャラクターとか、やっぱり善人にしかみえない尾藤イサオ(ファンです)の悪役など色々問題もあるが、競輪学校で鍛えた中村敦夫氏の肉体の充実度には驚かされる。主題歌復活も嬉しい限り。



最新紋次郎情報

紋次郎ファンには有名な群馬県藪塚本町のテーマパーク「歴史の里三日月村」に今年春にも笹沢左保記念館オープン!間引きされそうになった生家のまえでのんびりする紋次郎人形など噴飯モノの展示が笑えたこの施設だが、今度出来る記念館で笹沢氏自筆の原稿やビデオでシリーズの名場面も見られるらしい。これは楽しみ。春のツーリングコースに決定だ。→行ってみやした。

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