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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「みょん!」















































  

  





 冥界たる白玉楼にも、日は上り、月も上る。
「ふぁぁ……」
 生憎冥界生まれの冥界育ちたる魂魄妖夢にとって、それは疑問にも何にもならなかったのだが、毎度毎度狂いもなく上ってくる天文二象にはつくづく感心していた。
 私だって、時折寝坊したりするのにな。
 そんなこと考えながら、その日の早朝、彼女が着替えようと箪笥の引き出しを開けると、
 引き出しの底に、妖夢を見つめる形で八雲紫が頭がはまっていた。そして、そのままずるりと上半身を引きずり出すと、
「やっほー、お邪魔するわよ」
 白玉楼の庭二百由旬いっぱいに、妖夢の悲鳴が木霊する。



『ディアフレンド』



「まったくもう、紫様はいつもいつも……」
 白玉楼の客間。いつもの服に着替えて、お茶を淹れながらむくれる妖夢を見て、紫は微かな笑みを浮かべた。
 まぁ、無理もないかしら。と、思う。前回は風呂場の戸からで、その前は居間の天井から降ってきたのだが、箪笥の引き出しから現れたのは、今までなかった。
「何事かと思ったら、修行が足りないわよ。妖夢」
 上座で彼女の主人である西行寺幽々子がそう窘める。少し眠た気なのは、朝っぱらから叩き起こされる形になったためであろう。
「大体、『みょあぁぁぁ!』なんて、白玉楼の庭師があげる声じゃ無いわ」
「も、申し訳ありません幽々子様……」
 たちまちしゅんとなる妖夢。
「あら、私には耳に佳い声だったわよ。生まれたばかりの子犬が初めて吠えたみたいで」
 と、紫がまぜっ返すと、妖夢は落ち込みながら赤面するという器用なことをしながら、お茶を差し出してきた。
「それで、どうしたの? 紫」
 あなたのことだから、早朝だろうと深夜だろうと急ぎの用事って事ではないんでしょうけど、と、後からきた湯飲みを傾けながら幽々子が問う。
「察しがよくて助かるわ。実はね、さっき帰ってきたばかりなの」
 そう紫が言うと、幽々子は湯飲みを置いて、
「――遠いところからね」
 正鵠を射ってきた。
「そう、遠いところからよ」
「……どこからです?」
 幽々子の右隣りに控えていた妖夢が口を挟む。
「外、よ」
「そ、外って。ま、まさか、幻想郷の外ですか!?」
 と、紫の返答に慌てた口調で妖夢。
「他に何かあったかしら?」
「いえ、無いですけど……」
 と妖夢が語尾を濁らせる。
「妖夢、相手は紫よ。言うまでもないことだと思っていたけど、常識に捕らわれてはいけないわ」
「あら、それじゃ私が鬼神の類みたいじゃない」
「あまり違わないわ」
「……まぁ、そうね」
 お互い微笑みあう。
 まぜ返した幽々子にしたって、幻想郷の里の者から見れば、この世のものとは思わないであろう。
 事実、彼女はあの世のものである。
「それで、外はどうだったの?」
「そうね、相変わらずと言えば相変わらずだったわ」
 開け放した襖から、庭を見やる紫。
「幻想郷よりずっと広いはずなのに、狭そうに暮らしているの。本当、窮屈そうだったわ」
「――この庭を見ていると、とてもそうは思えません。ここよりずっと広いのに」
 と、妖夢が再び口を挟む。
「そうね。ま、外の人間が此処を見るのは、その生涯を終えた後よ」
「其処で初めて、狭き思いから解放される……矢張り外は嫌だわ、妖夢」
「はぁ……」
 幻想郷の外を知らない妖夢からしてみれば、そう曖昧に頷くことしか出来ないであろう。
「さて、暗い話題はこのくらいに致しましょう」
 そう言って、紫はスキマに手を突っ込んだ。
 いぶかる二人に、片目を瞑って、
「お土産よ。お土産」
「――それでこそ、紫よ」
 と、余裕の表情を浮かべて幽々子はそう宣うたが、それも其処までで、
「で、何を持ってきたのかしら」
 久々に、外見年齢相応の貌になっていた。
「はい、これ」
 まぁ。と、幽々子が瞳を輝かせる。
「コーラね!?」
「こおら?」
 妖夢が首を傾げる。
「外の飲み物よ。妖夢」
 と、紫からアルミ缶を受け取って幽々子。
「珍しいんですか?」
「珍しいわ。幻想郷ではまず飲めないもの」
「どんな飲み物なんです? それ」
「百聞は一見に如かず、よ」
 そう言って、アルミ缶を妖夢に放ってよこす幽々子。
「こ、これは……水筒?」
「間違っていないわね」
 使い捨てだけど、と紫。
「ど、どうやって開けるんですか? これ」
「はいはい、貸してご覧なさい」
 途方に暮れる妖夢から缶を取り上げ、幽々子はプルタブを引き起こした。
 瞬間、炭酸ガスが飛散する音が微かに響く。
「はい、開いたわよ」
「あの、閉められないようなんですけど」
「紫が使い捨てって言ったでしょう?」
「はぁ……」
 曖昧に頷く妖夢。どうも、彼女の辞書に使い捨ての文字はないようである。
「はんぶんこしましょう。妖夢、湯飲みをふたつ出して」
「あ、はい。でも良いんですか?」
「いいのよ」



■ ■ ■



 ――はんぶんこしましょう。
 ――でも、それはあなたの桜餅じゃないの。
 ――いいのよ。



■ ■ ■



「あ、泡が出ました!」
「出るわよ」
「なんか黒いです!」
「黒いわよ。紅魔館で珈琲を飲まなかった?」
「飲みましたけど……あれは、苦かったです」
「心配すること無いわ。珈琲とは全く違う味だから」
 そう幽々子に勧められて、妖夢は恐る恐る湯飲みに口をつけた。
「……甘いです」
「そうね」
「あと、舌がぴりぴりします……」
「じきに慣れるわよ」
 ころころと笑って幽々子。
 そんなふたりを眺め、紫はぽつりと、
「なんというか、見たかったものが見られたわ」
 と呟いた。途端、幽々子が、微かに目を細める。
「……ずるいわ、紫」
「あら、なんで?」
「だって今、前の私を思い出したでしょう? 本当にずるいわ。その時の私を知っているんだもの」
 前の私。
 その時の私。
 生前の、私。
 幽々子の言いたいことはわかる。
 紫の懐かしいものを見る視線を、幽々子は見逃さなかったのだ。
 妖夢は動かない。湯飲みを両手で持ったまま、ことの重さを計りかねているようである。
 そんなふたりを紫はしばらく眺めていたが、すぐに、あーあ、ばれちゃったと、頭の上で両手を組み、
「幽々子は、私に対しては率直よねえ」
 と言う。
「ご指摘の通り、思い出したわよ。――まだ肉体があった頃の幽々子を」
「……それは」
 ようやく事態を飲み込めた妖夢が、片膝を立てた。
「妖夢、落ち着きなさい。――全ては過ぎたことよ」
「そうね。どう足掻いても取り戻せないものだわ」



□ □ □



 ――止めはしないけど、言っておくわ。そんなことをしても無駄よ。
 ――ありがとう。でも、これは私が決めたことだから。



□ □ □



「……私は、紫の知っている昔の私と変わったのかしら」
 コーラの入った湯飲みを傾けて、幽々子は問うた。
「――まぁそうね、育ちはしたわね」
 紫は気楽にそう答える。
「育つ?」
 紫は答えず、代わりに幽々子の胸元に視線を落とした。
「あら……そうなの」
 続いて幽々子も自分の胸元を見る。
 そして両手で自分の胸を押し付けると、
「昔の私は、妖夢位しかなかったのかしら?」
「幽々子様っ」
 顔を真っ赤にして、妖夢が叫んだ。
「大丈夫よ、妖夢。あなたもいずれは大きくなるわ」
「そうよ。うちの式なんて、気が付いたら尻尾が九本に増えていたんだから」
「そういう問題ではありませんっ」
 ますます顔が赤くなる。この二人に挟まれると、ものすごく立場が弱い妖夢である。そんな彼女に、幽々子は微笑みを浮かべ、
 紫は安心したような貌を一瞬だけ浮かべて、同じく笑顔を見せたのだった。



「お見送りは、此処で良いわ」
 白玉楼、玄関前の廊下。
 先導している妖夢にそう声をかけて、紫はスキマを開いた。
「あの……紫様、お聞きしたいことが」
「何かしら?」
 唐突な妖夢の質問に、開けたスキマを足下にまで下げて、紫が聞き返す。
「幽々子様は、生前と死後で、どう変わられましたか?」
 直球な質問だった。迂回しながら正中を貫く幽々子とは、まだ並べないわねと思う。
「そうね……」
 紫は頤に指を当て、しばし考え込む『ふりをした』。
 答えは既に、出ているのだ。
「笑顔、よ」
「笑顔?」
「そう、笑顔」
 スキマに半身を滑り込ませながら、紫は答えた。
「笑顔が、変わったわ」
 形だけのものから、人並みに笑えるようになるまで、数世代分の時を過ごして。
 不憫とは思わない。其処に辿り付けない人間が多いことを、紫は知っている。
 ただ、数奇な運命よね、とも思う。
「それは、どういうことでしょう?」
「自分で考えなさい。あなたが幽々子の一番近くに居るんだから」
「は、はぁ……」
 困惑する妖夢に、紫は幽々子と同じ笑みを浮かべる。
 彼女は気付いているだろうか。自分が笑顔の大元であることに。
「それじゃあ、お休みなさい」
 そう言い残して、紫はスキマを閉じた。
 慌てて頭を下げる妖夢の姿が、視界の角に残像として残る。



Fin.




あとがきはこちら













































「幽ょん!」
「幽々子様、それは無理ありすぎです」




































あとがき



 紫と幽々子でした。
 いきなり私的な話で恐縮ですが、紫はどっちかというと『外』にしょっちゅう出ては何か珍しいものを持って帰ってくるというイメージを持っています。
 それと、幽々子は昔から紫と交友関係があった……というところから、今回の話が生まれました。
 実際、ふたりの交友関係は東方萃夢想で描かれていますが、日常的にはこんな感じなんじゃなかろうかと思っています。
 さて、次回は本編中にあった紫の話か、アリスと魔理沙で。

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