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このお話は、AngelBeats!12話まで視聴されていること前提で書いてあります。

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「ユイのゲリララジオ、略してゲリララ! 今日のゲストは、現世での音無先輩スキー代表、五十嵐さんです〜」
「なんだその紹介。悪いな五十嵐、あいつちょっと歯に衣を着せないって言うか――」
「いや、いいって。音無が楽しそうならさ」
「そ、そうか……」
「ふっ――新たな、ライバル登場ってか」
「お前は何を言っているんだ日向」
「ふん、下らんな……僕の方が、音無さんを大好きなんだからっ――!」
「お前も何を言っているんだ、直井」
「ちょっと待て、俺の方がもっともっと好きだぜっ!!」
「……気の合う仲間が居て良かったな、音無」
「いや、その感想はどこかおかしいぞ五十嵐……」
「っていうかDJほったらかしてBL路線に入らないで下さいよ投げ飛ばしますよ割とマジで」




























































































  

  


「なによそれ」
 音無が持ち込んだ『それ』を見て、ゆりは開口一番にそう言った。
「かなでが俺達の分をわけてくれたんだ」
 対天使用作戦本部。皆が思い思いの格好でくつろいでいたのだが、今は全員がその視線を音無が手にしたものに固定されていた。
 かつては、良く目にしたものである。
 だが、今ではとんと縁の無いものであった。
 音無は、全学年分のそれを『ひとりで軽々と』持っていた立華かなでから貰ったのだという。
「なんでも――」
 と、両手で抱えていたそれを持ち直しながら音無。
「なんでも、今日は七夕なんだってさ」



『星に願うよ』



「あのね、音無君。あたし達が何と戦っているか――」
 音無が持ってきた短冊を飾る笹を前にして、多少頭が痛そうに、ゆり。時折、音無という人間が非常に扱いにくく感じるときがある。丁度、今のように。
 完全に予想外の行動に出るからだ。幾多の修羅場をくぐり抜けてきたゆりをもってしても、全く想像できないことをする。ことを言う。
「星に願うんだ」
 現に今も、全く予想外のことを音無は言った。おそらく、この部屋の中に居た人間全員が予想できなかったことだろう。
「……なんですって?」
「星に願うんだよ。俺達は星と戦っているわけじゃない。そうだろ?」
 その発想は無かった。そんな空気が、作戦本部を支配する。
 こうなってはもう、仕方がない。流れは音無の方にある。
 そう言った機を、ゆりは見逃さない。
「……わかったわ。許可する」
「ありがとう、ゆり」
「別に――たまにはこういうのも良いんじゃないかって、思っただけよ」
「そうか」
 傍目から見て、素直でないゆりの言動であった。
 だが、それで音無は満足したらしい。
「それじゃ、これ」
 そう言って、ゆりの目の前に制服のポケットから出した短冊の山を置く。
「もちろんゆりの分もあるから、よろしくな。俺はこの笹を校庭の前に立ててくるから。朝礼台の真横に立てれば、わかるだろ?」
「そう通達を出しておくわ」
「ん、よろしく。――繰り返すけど、お前の分もあるからな。ゆり」
「わ、わかったわよ……」
 なんかすげぇ珍しいものを見た。
 もじもじするゆりを中心に、場の雰囲気はそんな感じに変わっていた。



■ ■ ■



「……むぅ」
 音無から渡された短冊を前に、ゆりはただただ唸る。
 夕刻、対天使用作戦本部。あれだけ人が居たこの部屋には、今ふたりしか居なかった。
「こういうものは、思った通りのことを書けば良いかと」
 ゆりの側に控えていた――唯一残っていた遊佐が、ぽつりとそう言う。
「いざ紙に書くとなると、難しいのよ。まるで書いた途端願いの意味が変わりそうで」
「シュレディンガーの猫みたいですね」
「そこで量子力学持ち込まれるとは、思わなかったわ……」
 どちらかというと、ゆりの苦手な分野である。
「参考までに聞くけど、短冊に何て書いた?」
「私ですか……?」
 珍しいことに、遊佐が言い淀んだ。だが、その沈黙した時間は常人の半分ほどであり、文字通り程なく息を小さく吸って、
「『オペレーションに関係なく、ガルデモの曲が聞きたいです』――と」
「……ごめん」
「いえ、これは私のわがままですから」
 特に慌てた様子もなく、淡々と遊佐は続ける。
「でも、いつかは叶う。そんな願いが、ちょうど良いのかもしれません」
「いつかは叶う――ね」
「はい。それでは、私はここで」
「え?」
「おひとりの方が、捗りそうですので」
「いや、まぁ、そうかもしれない……けど」
「それでは、また明日です。ゆりっぺさん」
「あ、うん。お疲れさま」
 気を使わせちゃっったかなぁと、ゆりは思う。
 他の連中にしたってそうだ。普段であれば用が無くとも此処で暇を潰しているのだから。
「迷っているだけ、時間の無駄か」
 ゆりはひとりそう呟いて机に向かう。
 程なくして、書きたいことは決まった。
 後は何時、どうやって飾るかである。



■ ■ ■



「よっ――と」
 自分の短冊を括り付け終わり、一歩下がって様子を見る。

『皆が無事に、卒業出来ますように   音無結弦』

「……うん、こんなもんか」
 見せびらかすつもりはないが、かといって隠すつもりもない。丁度良い位置に飾れたと思う音無であった。
「そういや、みんなは何て書いたんだろうな」
 笹を立て終わった後、皆が気兼ね無く飾れるようにと適当に時間を潰していた音無である。その目論見は効を奏したようで、様々な色合いの短冊がいくつも飾られていた。
「どれどれ――」
 その一部を、眺めてみる。

『岩沢が達した境地へ何時か辿り着けるように   ひさ子』
『平穏   チャー』
『ゆりの苦労が報われるように   野田』
『川の主よりワックワクする魚を釣り上げることだっ!   斉藤』
『最強のボーカルと可愛いお嫁さんになれますように   ユイ     それと日――』

 特にユイのが微笑ましい。そう思う音無である。
「他には――と」

『May The Dance be with you! T.K』

「……ダンスと共にあれ?」
 意味がわからなかったが、ある意味TKらしかった。らしいと思う、と思いこむ音無である。
「えーと、他には――」

『あさはかなり   椎名』

「な、何がだ……?」
 まるで自分のことを言われたようでいやな汗をかいてしまう音無であった。余談であるが、椎名の短冊には裏に『カピバラさんのぬいぐるみがほしいですっ』と書いてあったのだが、これに音無は気付けなかった。
「ほ、他は……」

『最後まで、大事な人に添い遂げられますように   直井』

「……あいつ、好きな人でも居るのかな」
 自分のことはてんで見えていない音無である。
「お。これは」

『ずっと親友と笑って過ごしたい   日向     それと、ユ――』

 思わず、頬が緩む。
「結構みんな、書いてくれたんだな」
 他にも――、

『かませたくねぇ   藤巻』
『誰かがクライストと呼んでくれるように   竹山』
『出番をください   入江・関根』

「……くぅっ――!」
 文字が滲んで、よく見えなかったものや、

『筋肉   高松』
『肉うどん   松下』
『まだ食べたことのない味のポテトチップス   大山』

 実にダイレクトな短冊等があった。
「全く……みんな、好物を書いてるだけじゃないか」
 ある意味もっとも欲望に忠実な短冊達にため息をついたときである。
「その笹、もう満員?」
 音無の背中に、そう声をかけたものが居た。
 言うまでもない。か細いけれど、はっきりと聞こえるその声は――、
「――かなで」
「まだ受け付けているのかしら」
 振り返る音無に、小首を傾げてかなでは訊く。
「あぁ、大丈夫だけど。でも良いのか? 生徒会長が俺達の笹に飾って」
「構わないわ。副生徒会長がすでに飾っているし――」
 口元を小さく綻ばせてかなでは続ける。
「――知っている人達と一緒の笹の方が良いから」
「……そうか。そうだよな」
 椎名は正しかった、俺は浅はかだったんだ。そう思う音無である。
「歓迎するよ、かなで。短冊を持ってきてくれてありがとう」
「そう。良かったわ」
「なんなら付けてやろうか?」
「そうね、お願い」
 手渡された短冊をのぞき込むまでもなく、その綺麗に書かれた文字が自然と目に入った。

『激辛麻婆   立華かなで』

「……うん。お前もか、かなで」
 仮にも生徒会長がこんなダイレクトな願い事で良いのだろうか。遠い目でそう思ってしまう音無である。
「最近学食の辛さに慣れてしまったの」
「慣れるなよ……っていうか、慣れられるものなのか、あれ」
 かなでの好物が判明してから、何度か件の麻婆を頼んでは、その辛さに悶絶している音無である。
「そのうち結弦も慣れるようになるわ」
「そ、そうか……じゃあさ、その麻婆を食べに行かないか?」
「行く」
 即断という言葉すら遅く感じられるほどの素早い返事であった。
「よし、行こう」
 自然、手を繋ぐ形になって、ふたりは学食へと歩いていく。
 後には、SSSの皆が短冊を括り付けた笹と、人ひとりが入れそうな段ボールが残った。
 ――人ひとりが入れそうな、段ボールが残った。
 ややあって、その段ボールががたがたと動く。
「ふう……」
 中に入っていたのは、ゆりであった。
「あー、甘かった。昼ドラもびっくりの甘さね、あれ……」
 先ほどの音無とかなでのやりとりを思い出しつつ、ぼそりとゆり。
「さて。もう誰も来ないわよね……よっと」
 辺りを見回してから段ボールから身を乗り出し、一番高いところに自分の短冊を括り付ける。
「これでよしっと」
 風に揺れる自分の短冊を眺めながら、ゆりはそう呟く。
「さてと、学食にでも行こうかしら――ってどう考えても音無君達とかちあっちゃうわよね……いいわ。久々にギルドに降りてお茶でも貰いましょ」
 そう呟いてから、再び自分の短冊と、風に揺れる笹を見上げる。
「――星に願うんだからね。勘違いしないでよ?」
 最後にそう言って、ゆりは駆け足で校舎に戻っていった。
 後に残された、SSSとかなでの短冊が風に揺れる。



『みんなを守りきれますように   ゆり』



Fin.




あとがきはこちら








































「――麻婆・麻婆・麻婆・麻婆、麻婆大家族っ♪」
「あるのかよ!?」
「やんちゃな焼き麻婆、優しいあんかけ麻婆、いつも夢見がちな月見麻婆、お澄まし胡麻麻婆、四つ子の串麻婆、よりどりみどりよ」
「いや、最後のは苦しいだろ」
「行ってみたいわ、麻婆星」
「陸地がひとつもなさそうだな、そこ……」
「嬉しいこと悲しいことも全部、激辛」
「なんだその辛い人生」
「『つらい』と『からい』をかけたのね。ナイスジョークよ、結弦」
「いやもうそれでいいや」











































あとがき



 二日遅れのAngelBeats!七夕編でした。
 今回は始終のんびりした話になりました。……なったよね?
 アニメ本編は最初から最後までジェットコースターのような展開で、それはそれで好きなんですが、もう少し、もう少しだけ尺があれば今回のように最初から最後までまったりとした話も出来たんじゃないかなと思います(そして、それが観たかった私が居ます。ある意味野球の回がそれなのかもしれませんが)。
 さて次回ですが、予定通りいければ水着で(いーひっひっひ!)。

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