超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。
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「岡崎渚さんね？ ようこそ、死んでたまるかコンチクショー戦線へ。私はゆり、一応ここのリーダーをやっているわ。さて、貴方はまずこの学校生活の――」
「……あの、すみません」
「なに？」
「あの、わたし二十歳越えているんですが……」
「……ごめん」
「確かに二留して二十歳まで高校生でしたけど……」
「……もっとごめん」
「……どうするんだよ、この人」
「きょ、教師役なんかどうかしら？」
「ごめんなさい。教員免許、持っていないです……」
「そろそろ炬燵、しまうか」
おとーさんがぽつりとそう呟いたのはとある春の日の、そろそろ日が暮れようかといったときのことだった。
「う、うん。そうだね……」
我ながら歯切れの悪い口調で、わたし。何故なら今すぐ炬燵が片づけられるとかなり困ったことになるからだ。
「ま、明日はまた朝冷えるそうだからな。もうちょっと様子を見てみるか。……どうした汐。お前、少し暑そうだぞ？」
「え、そう？」
演技が下手なのは覚悟の上で、誤魔化すわたし。
そう、確かに暑い。今朝はちょっと肌寒かったのでストッキングを着用しているため、脚全体がちょっと蒸れている。
だけど、今出るわけにはいかない。いかないのだ。
『今、そこにあるくだらない危機』
ことの起こりは、カフェ『ゆきね』でのひとこまだった。
「メガパフェ……ですか？」
メニューに手書きで書き加えられたその文字を読んで、わたしはそう呟いた。
「はい、メガパフェです」
と、いつもの笑顔で店長の宮沢有紀寧さんがそう答える。
「一体どうしてこんなメニューを？」
首を傾げて、わたし。店長の趣味から言ってこういうものは『ゆきね』では取り扱わないだろうと思っていたからだ。
「それはもちろん、リクエストがあったからですよ」
と、にこやかなまま店長はそう言う。
「リクエスト？ お客さんからですか」
常連の逞しい人たちだろうか。でもなんか違うような気がする。あの人たちの場合、軽食の大盛りを希望するのではないだろうか。軽食なのに大盛りってなんか変な感じだけど。
「はい、お客さんです。岡崎さんも御存知の人ですよ」
……それって、まさか。
「ふぅさん――伊吹風子先生ですか？」
と、声を潜めてわたし。
「はい、大正解です」
さすが岡崎さんですね、と店長。
「さらにランキングもリクエストされたんですよ」
「ランキング？」
再び首を傾げるわたしに、店長はお店の一角にある張り紙を見せてくれた。
３位：伊吹風子（２１分３７秒）
２位：伊吹風子（２０分５２秒）
１位：伊吹風子（２０分４５秒）
発案者のふぅさんは、良きリピーターでもあるようだった。
「えっと、店長。わたしもこのメガパフェで」
「かしこまりました。でも、すごい量ですよ？」
「大丈夫ですよ」
胸を張って、そう宣言する。
忘れられがちだけど、わたしだって女子高生。甘いものは好きなのだ。
「ふ……」
玄関の戸を後ろ手に閉めて、わたしは口の端を小さく吊り上げた。
結果はもちろん、わたしの勝利。ふぅさんが達成した記録をあっさりと覆させてもらった。ちなみにそのタイムは１８分５７秒。ふぅさんが破れなかった２０分の壁を飛び越え１９分台もクリアしている。これでそうそうわたしの記憶は破られないだろう。
「――うくっ」
ただ、無傷というわけにも行かなかった。お腹が――具体的に言うとスカート周りがきつい。
「ん……」
スカートを脱ぎ、ごろりと横になる。
……む、これだと脚がすーすーしすぎる。
「んん……」
そのままごろごろと転がって、わたしは炬燵の中へと入った。
「――ふぅ」
ようやく、一息つける。
それにしても、『ゆきね』のメガパフェは美味しかった。ああいった超大盛り系は普通コストと手間を考えて味と盛りつけに手を抜かれがちになるものだけど、今日食べたパフェはどちらも普段通り店長のこだわりがしっかりと篭もっていた。たとえば、生クリームよりフルーツを多くして比較的あっさり風味に仕立て上げてあるのは、店長による配慮の賜物だろう。
「んふー……」
思わず、にやけてしまう。今度おとーさんと一緒に食べに行くのも良いかもしれない。
おっと、おとーさんと言えば後どれくらいで帰ってくるだろう。わたしはごろりと身体の向きを変えて壁の時計をみる。うん、あと１時間、早かったとしても３０分は持つだろう。もうちょっとしたら炬燵から出れば――。
「ただいまー」
そこで、何故かおとーさんが帰ってきた。
「いやー、たまたま仕事がいい具合に切り上げられてな。定時前だけど上がっていいよって所長がさ。どうした？ そのスカート」
都合の悪いことに、おとーさんはわたしが脱いだままにしておいたスカートに気付いてしまった。
「あ、うん。ちょっと箪笥の整理をしていてね。ちょっとほつれていたから直しておいたの」
「駄目じゃないか、ほっぽりだしたままじゃ。洗濯機に入れておくぞ？」
「あ、うん。お願い……」
手を伸ばせば届く距離だったわたしのスカートは、こうして絶対的な距離へと離れていってしまった。
まぁその、自業自得だけど。
さて、ここまで言えばもうわかると思う。
わたしは今、スカートをはいていない。
うっかり炬燵から出たら最後、だらしない上にあられもない格好を披露してしまうことになってしまうのだ。
「で、いつまで炬燵に入っているんだ」
再び、おとーさんがそう訊く。
「ん、ちょっと演劇部の練習で疲れちゃってね」
嘘は言っていない。だからこそ『ゆきね』で一服したわけだし。
「それならいいんだが……なんか暑そうだぞ、お前」
「そ、そう？」
「まさか、体調が――」
「それはないからっ」
こんなおばかな理由で、おとーさんにいらない心配をさせてしまっては申し訳ない。
「――そうか」
そう頷いてからおとーさんは静かに立ち上がった。
「どうしたの？」
「ん？ トイレだよ」
「あ、そうか……変なこと聞いてごめんね」
「いや、どっちかというと変なのはお前の方だし」
そう言って、おとーさんはトイレに入った。
チャーンス！
わたしは一気に炬燵から飛び出ると予備のスカートをゲットすべく箪笥へと――
「あ、汐。トイレの紙きれているから補充するぞ」
突如おとーさんがトイレから出てきてそう言った。
「――なにやってるんだ、お前」
箪笥に片手を突っ込んでいるわたしは一言で言うと、だらしなくてはしたなくてあられもない。
「す、ストッキングはいているからセーフだよね？」
口元が震えるのを誤魔化すことは出来なかった。それでも一縷の望みにかけて、わたし。
「うっすらと透けて見えるわけだが」
い、
「ある意味丸見えより色っぽいわけだが」
いい、
「渚はそういうことなかったからなんか新鮮だが、お前はやっぱり俺の娘だな。俺もだるいときは結構だらしなかったし。まぁ何はともあれ――」
いいい、
「ナイスサービス、汐！」
「いやーっ！」
思わず頭を抱えて悶絶する。
もう、だらけるのは絶対にやめよう。そう固く誓うわたしだった。
「っていうかいい加減後ろ向いてよっ！」
「はっはっは。授業料授業料」
そんな授業料があるかーっ！
Fin.
あとがきはこちら
「ストッキング着用ですか……汐ちゃんもタイツの良さに目覚めたようですね」
「ごめんふぅさん、言っていることがよくわからない」
「ようこそ汐ちゃん、黒須党へ！」
「だからふぅさん、人の話聞こうよ」
あとがき
○十七歳外伝、ぐうたら編でした。
野郎がやったらただだらしないだけですが、女子がやるとそこそこ絵になるのは何故でしょうね。謎であります。
さて次回は、お色気無しのコメディで。