或春の日暮です。 唐の都洛陽の西の門の下に、 ぼんやり空を仰いでいる、 一人の若者がありました。 若者は名を杜子春といって、 元は金持の息子でしたが、 今は財産を費い尽して、 その日の暮しにも困る位、 憐な身分になっているのです。 何しろその頃洛陽といえば、 天下に並ぶもののない、 繁昌を極めた都ですから、 往来にはまだしっきりなく、 人や車が通っていました。 門一ぱいに当っている、 油のような夕日の光の中に、 老人のかぶった紗の帽子や、 土耳古の女の金の耳環や、 白馬に飾った色糸の手綱が、 絶えず流れて行く容子は、 まるで画のような美しさです。
芥川龍之介『杜子春』 21行でちょっと長い 漢字や送り仮名は原文のままです。 読みのわからない言葉 漢字変換できない言葉 調べて「辞書登録」しましょう