倒産玩具メーカ悲運の名機 「モリタニ マイコンベースボール盗塁王」

 アーケードであれ、据え置き機であれ、携帯機、PC含めて、今も昔もスポーツゲームというのはコンピュータゲームの重要なテーマの一つ。

古くはファミコンのベースボール、テニス、ゴルフ等々、あるいはナムコのファミスタ他があり、現在でもSCEの”みんなのゴルフ”やコナミの”プロ野球スピリッツ”など、それら完成度の高いタイトルが相変わらず人気を博している。

いにしえの電子ゲームでも多分に漏れず、スポーツゲームというのは一大分野にカウントされるのだが、表現力の向上したファミコン以降のテレビゲーム機とは違い、表示形式においても操作方法においても著しく制限が課される電子ゲーム機では、スポーツ性の再現というのはかなり困難な事柄だった。

それでも各メーカは、様々な工夫で何とかリアルなスポーツ感を演出しようと苦心惨憺していたのだが、失敗作に終わる事も多く(笑)、報われる事が少なかった分野だとも言える。

今回はそんな電子ゲーム機のうち、野球を題材に取ったものを紹介したい。
 

 自分が小学校2年〜3年生くらいの時に購入したもので、既に玩具メーカとしては倒産しているモリタニの”マイコンベースボール・盗塁王”である。

全景。 モリタニの表示が泣かせる。
 
 

 野球というのは1990年代まで、日本で最も人気のあったスポーツで、現在こそサッカーとシェアを二分している感はあるが、それ以前は、日本人の代表的スポーツといえばぶっちぎりで野球であった事に異論を挟む人はあまりいないだろう。

 当然、電子ゲームの分野においてもバンダイ、トミー、エポックといった全ての大手玩具メーカから野球を題材に扱ったそれらが発売されており、まずまずの人気を得ていた。

 自分は小学生当時、自身がそれほどスポーツを得意としていなかった事もあり、野球を見るのもプレイするのもあまり好きではなかったのだが、これがゲームとなれば話は別である。

何かのタイミングで父親から電子ゲームを買ってもらえる事となり、例のごとく店頭で凄く迷っていた。父親は今でも高校野球の地方予選を生で見に行くくらい野球が好きなので、おそらくゲームを買ってやるにしても野球を選べ、的な感じで自分に要求したのだと思うが、とにかく電子ゲーム機さえ買ってもらえればなんでもいいと考えていた当時の自分にとって、別にそれ自体は問題でなく、じゃあどのメーカの野球ゲームを買うのか、というのが一番の問題となっていた。

 もう一つ問題があったのが、父親が出せる金額がそれほど潤沢ではなかったという事で、大手玩具メーカの販売する野球電子ゲームはなかなか高価なものばかりで、価格をみるにつけ父親が出費を渋るという展開になっていた。

 色々結論の出ない親子に、玩具屋の親父が提案したのが、「保証や修理は難しくなるけど、こないだ倒産した玩具メーカの野球ゲームの在庫がある。これなら大幅に割引できるし、機能的には大手メーカとも遜色がないので、そちらの要求にぴったり見合うのではないか」
というもの。そこで薦められたのが、モリタニの”マイコンベースボール・盗塁王”だったわけ。

 この手の野球電子ゲームの類に同じく、野球盤形式で守備側と攻撃側が相対し、赤色灯の発光で表されるボールがバッテリー間とフィールドを行き来して、擬似的に野球のルールを
再現するものになっている。

フィールド全景。
 
 

 しかし大手メーカの操作系とは一線を画し、通常は硬質プラスチックかゴムで構成されるスイッチないしボタンが、経費節約のためか何とフィルムシート1枚になっており、ペラペラで、押した感覚は極めて心もとない(笑)。

 ピッチャーが扱えるのはカーブ、シュート、ストレートの3種類、これに球速を上げるボタンが付いていて、3×2の合計6球種で勝負する。
変化球のカーブとシュートだが、赤色点灯が右か左にずれてベース上を外れてキャッチャーミットに収まるので、振らなければボールになる。打者のタイミングを外すには非常に有効な球種だが、見送られるとボールになってしまうので使用するときは注意が必要だろう。

  また、シュートとカーブのボタンを押した直後に再度ストレートを素早く押せば、ボールゾーンからストライクゾーンに入ってくる変化球を投げることも出来る。ただし、カーブとシュートの変化に差異はなく、単に点灯する位置が違うだけなので、実質どっちを投げてもバッターにとっては一緒、という弱点はある(笑)。

左から、ハイスピード、カーブ、ストレート、シュート

 攻撃側の操作手段は通常どおり、バッティングとバントの二つ。さらに、このゲーム最大の特徴として、盗塁ボタンが付いている。

左から、バント、盗塁、バッティング、攻守交替のチェンジ、ソロプレイと2人プレイの切り替えスイッチ
 
 

 ピッチャーが投げたボールがマウンドからキャッチャーに向かって赤い光球となって飛んでくる。ベース位置を通過するタイミングでバッティングボタン(つーかシート)を押すと、打撃音のビープが鳴って、今度はフィールドエリアに赤色点灯が走る。そこでヒットかアウトかが判定される訳だが、バッティングボタンを押すタイミング自体も細かく計測されていて、ジャストミートでボールを捉えるとホームランになり、外れてくるにつけ、3B、2B、シングルと成果が下がり、ヒットのタイミングを逃してしまうと守備者のところにボールが飛んでアウトになる。
 この計測時間はかなりシビアで、ちゃんとタイミングを意識しないと、ことごとくアウトになることは必定。

また、カーブやシュートといった変化球でベース上を外されても、ベース付近を通過した時にバットを振ればボールに当てる事はできるので、ジャストタイミングさえ計ればちゃんとヒットを打つことが可能。ただし、ストレートとはベース付近を通るタイミングが違うため、ジャストミート自体がかなり難しくなっている。
 

 当時のこの手の電子野球ゲームではボールがヒットになるかアウトになるかはランダムで判定していた機種もあったので、本作が、相当真面目に作りこまれたゲームであることが分かる。
まあ、ファウルはないけど(笑)。

ピッチャー、キャッチャーのバッテリー間拡大。カーブ、シュートは左右のボールゾーンへ。ストレートは真ん中ストライクゾーンへ。
 
 

ヒットでランナーが塁に出ると、このゲーム最大の特徴である盗塁が可能になり、バッティングボタンを押す代わりに盗塁ボタンを押すと、ランナーの走るエフェクトとビープ音が鳴って、これまたタイミングで成功か失敗かの判定がなされるわけである。

 このほか、バントやタッチアップ、ダブルプレイといったアクションも再現されており、大手メーカの野球ゲームでは漏れていた野球ルールもしっかり組み込まれている。

 3アウトになったら、わざわざ攻撃側がイニングチェンジボタンを押してリスタートをかけなければいけなかったが、これは、2人プレイの時には守備と攻撃が入れ替わるため、攻撃側の準備が整わないうちに相手方が悪さをしてさっさと投球を始めてしまわないように配慮されたものだと思われ、なかなか細かい芸当を盛り込んである事に感心させられる(笑)。

 また、イニングとスコアはLEDでデジタル表示され、9回までと9点まではカウントされるようになっている、9回以上は同点でも延長に入らないし、9点以上の得点はカウントされないが、それはまあ、ご愛嬌ということで。

 その他の点では、当時の野球電子ゲーム機では二人プレイ専用のものもあったのだが、本機種は攻撃側のみしか担当できないとはいえ、コンピュータ相手のシングルプレイもサポートされている。完成度がまだまだ未熟だった電子野球ゲームの中にあっては、なかなか高い完成度を誇っていたことが分かる。

イニング・スコア付近のアップ。

当時の状況

惜しむらく、このゲーム発売後、メーカのモリタニが倒産の憂き目に合ってしまい、ゲームウォッチの人気爆発やファミコンブームなどの波に乗れぬまま、玩具の歴史から消えてしまった。

 それゆえに、これ以上の発展を見ることが出来なかったわけだが、来たるゲームウォッチからの液晶機全盛時代、FL管ゲームの時代、さらにはファミコンを筆頭とするTVゲーム全盛の時代まで、モリタニが生き抜いてくれていたら、一体どんなタイトルをリリースしてくれたのだろうかと、悲しくも夢の膨らむ空想をさせてくれる。
 

 このゲームの完成度の高さから、自分たち父子ともどもすっかりハマって毎晩のようにプレイしていたわけだが、あんまりやりすぎるもんで母親からタンスの上に保管されて、宿題を済ませないと遊べないように管理させられていた。
 小学3年生のとき、あまりの宿題の多さに業を煮やした自分が、タンスの上に置いてある本ゲームを無理やり踏み台に乗って取ろうとして、床まで落下させてしまい、内部基盤を破損させて全く動作しないようになってしまった。倒産メーカなので修理も叶わず、ついに遊ぶ手立てが無くなってしまった・・・。

 今なら蓋を開けて基盤を確認し、TTLを交換してみるとか導通を見るとかいろいろ手段はあったと思うが、当時はそもそもそんな事は分からず、結局泣く泣く廃棄する事に。メーカのモリタニもそうだが、個人的にも悲運の名機になってしまった。

仕事から帰ってきた父親にこのゲームを壊してしまった事を言ったら、あんまり怒られはしなかったが、極めて落胆したような様子だった(笑)。
それ以後、たびたび父親から、「あの野球ゲームは面白かったのになあ・・・・」という台詞を聞くようになってしまった(笑)。

現在保有しているのは、ヤフオクで落札したもの。ネットの威力は偉大だよ。本当に。しみじみ。こんな倒産メーカのマイナー機種が手に入るんだから、ほとほと感心する。

ちなみに、親父にこのゲームを再入手したことは言ってない。別に他意はないのだが(笑)。
 
 

必勝法

 攻撃側としては、ベースを通過する瞬間の打撃タイミングを体で覚えるしかない。慣れてくれば、打った瞬間にそれがヒット性なのかアウトなのか、分かるようになってくる。最低ヒットのタイミングを掴んでおけば塁には出れるので、そこからの攻撃はぐっと組み立てやすくなるはずである。
 ただし、そのタイミングというのはかなりシビアなので、何回もやって身に着けていくしかないだろう。

 投球側は、とにかくタイミングを外す事が一番。カーブとシュートに差異はないが、球速変化と曲がるボールの組み合わせはかなり強力なので、うまくやればだいぶんピッチャー有利になるはず。また、操作にフェイントをかけて手を読まれないようにしたり、投球までの時間を変えたりと、色々な工夫が出来ると思う。
 

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