私的TVゲーム批評第六回

昔のプログラマー達の超絶技巧プログラミングゲーム(PC8801mk2SR編)

  現代のパソコン、及びゲームハードはソフト技術よりもハードの進歩スピードの方が圧倒的に早く、プログラムのノウハウやテクニックが蓄積する前に開発環境が激変してしまう。

  勢いソフトの質もハードの性能を頼んだ練り込みの浅いモノになってしまいがちで、一昔前のように優秀なプログラマが腕によりをかけた超絶技巧ソフトというのは発売されにくくなっている。

  ここでは、ちょっと前のプログラマ達がハードの性能をしゃぶりつくして作ったパガニーニ、リストの曲のようなゲームソフトを取り上げてご紹介したい。この回は、NECのPC8801mk2SRを取り上げる。
 

PC8801mk2SRの概要

 
  NECによって1984年に発売された8ビットホビーパソコンの決定版。CPUはこの頃の定番であるZ80系を採用していた。
  当初のPC8801シリーズは、PC9801に投資するほどのお金はないが、PC8001系では仕事への要求が満たせないという人の為に開発された、廉価版のビジネスマシンという位置づけだった。
しかし他社がFM7、X1等のPC8801とほぼ同等の性能を有するホビーパソコンを発売するに及んで、NECは戦略を変更。PC8001シリーズをフェードアウトさせ、変わってPC8801をホビーパソコンの全面に押し出した。
  まずは皮切りにPC8801mk2を発売し、間髪入れずその性能アップ版のPC8801mk2SRを発売、他社の追撃を振り切ってホビーパソコンの王者の地位を確立した。

  PC8801mk2SR(以下、PC88SR)は、それ以前の88シリーズのグラフィック能力および処理スピードを大幅に向上させ、ゲームユースにも使用できるような性能の確立を図った。
  グラフィックに於いてはそれまでデジタル8色が通常だったものを、アナログディスプレイに対応させた512色中8色のカラーパレット表示を実現。
  処理速度もそれまでの88シリーズとは一線を画すV2モードを増設し、ゲームユースに相応しいスピード機能を用意した。
  しかし、PC88SR最大の武器は、次世代のシンセサイザーであるFM音源を標準装備していた事だろう。
FM音源は音の波形を変調させる事によって無限の音色を表現できる当時期待のシンセサイザー。
一部アーケードゲーム機から徐々に使用されてゲーム音楽の質の向上に大変重要な役割を果たしていたが、パーソナルユースでそれを活用できるとは誰も思いも寄らなかった。
  実際、SRに対応して登場したゲームの殆どは、FM音源を使用した素晴らしいBGMを備えており、ユーザーは皆その衝撃的なまでの音色の美しさに大いに驚いた。
  ライバル機であるX1やFM7&77もオプションとしてFM音源ボードを用意したが、それが標準装備となるまでには長い時間を要した。ここでPC88SRとの差が決定的になったと言っても過言ではないだろう。
NECの先見の明には感服するより他はない。

  この後、FR、MR、TR、FH、MH等PC88ファミリーは値下げと処理スピードの向上を繰り返し、X1、FM7シリーズを寄せ付けず8ビットホビーパソコンの王者として長年にわたり君臨する。

  しかし、1987年頃よりゲーム内容の高度化に比して8ビットCPUの処理が追いつかなくなり始め、時代の流れは16ビットCPUのパソコンに移り始めた。
  折りしもシャープは全く新しいホビーパソコンX68000を登場させる。
  CPUにモトローラ68000を採用した斬新な機構、超美麗なグラフィック能力、専用ゲーム機に迫るスプライト能力等、従来のパソコンを圧倒する高性能で次世代パソコンのスタンダードとしてその優秀さを誇示する。

  これに対抗する為、NECは、「PC88のソフト資産が継承でき、大幅にグラフィック性能を強化したPC9801を」とのコンセプトでPC88VAを開発する。
  しかし、ここでNECは大きな戦略ミスを犯す。”Z80の機能をエミュレートできる高速8086”という優秀なCPU、V50をPC88VAに採用しながら、ホビーユースのPC88シリーズとビジネスのPC98シリーズというレッテル分けに拘ってPC88VAとPC9801の互換性を全くなくしてしまったのだ。
  大まかに言えば二者はほぼ同一の物であるし、ソフトにも特定の処理を施せば98用のソフトは88VA上にて殆どのものが動作したようだ。

  88と98の切り分けにこだわったこの判断ミスは痛かった。8ビット時代のソフト資産はユーザーにそれ程アピールせず、16ビットの性能を求める人間はX68000やPC9801に流れていった。
  PC88VAの進化は袋小路に陥り、これまで培ってきた88によるホビー路線は壊滅の憂き目を見る。

  ここからPC9801とX68000、それにインテル派に宗旨変えした富士通FM−TOWNSとの三つ巴の戦いが始まる。ビジネス用として捉えられていた9801は、当初よりマルチメディアパソコンとして想定されたライバル機に対して性能的に水を開けられてしまった。

  PC88VAは、性能的に見てもPC98VAと名乗っても不思議はないマシンであったし、もしそうしていればX68000の躍進もかなり阻まれていただろうと思われる。
  AVパソコンとしてはX68000の方が性能は上だが、88と98のソフトが双方使えるとなれば、88VAの魅力は大幅に向上していたことだろう。引いては、今のDOS/V一色のパソコン市場にもNECは屈していなかったかも知れない。

  NECは、後に過ちを正すかのようにPC98DOシリーズという88、98のソフトが両方使えるパソコンを発売したのだが、既に時遅し。焼け石に水で、消えかかった88の光を取り戻す事はできなかった。

  そして90年代前半、活動の殆どをPC9801に譲り、PC88SRシリーズはフェードアウトしていく。
  しかし、後継のPC9801も、忍び寄るDOS/V攻勢の前にその命脈は長くはなかった。
 
 
 

メーカー概論  ゲームアーツ

  プレイヤーは、ゲームに対して二つの事を求めていると思われる。ゲームそのものの面白さ(すなわちゲームバランス)で、存分にプレイを楽しませてくれる事。そしてもう一つは、斬新なグラフィックや技術で、耳目を驚かせてくれる事。
   実際にはこの片方を満たしてくれるソフトすら少ない。増してや双方を満たすとなればなおさらである。有名なゲームメーカーでも、任天堂やエニックスはゲームバランスの追求を中心としており、あまりプレイヤーを驚かせる事にはこだわっていないようだ。
  逆にスクウェアやセガは、ユーザーをグラフィックや技術で驚かせる事に固執しすぎて、ゲーム性をおざなりにしている場合がある。
  その点、ゲームアーツというソフトハウスは、優れたゲーム性でプレイヤーを楽しませ、なお且つケレンに満ちた技術でプレイヤーを驚かせてくれる希有の存在ではないだろうか。

  ゲームアーツの家庭用ゲーム開発は、一貫してセガハードを重視しており、スーファミ、PSといったメインストリームのユーザーからは馴染みの薄い会社かもしれない。しかし、上記のビッグネーム4社と比しても遜色のないクォリティのソフトを世に何本も問うており、もっと名が売れてもいい優秀なメーカーである。
 
 

テグザー

  その萌芽は既にパソコンソフト会社としてスタートした時から始まっている。テグザーは黎明期のゲームアーツがPC8801mk2SR専用として開発したソフトだが、SRの機能の真価を知らしめる驚異のソフトであった。
  数多くの敵キャラが一度に画面上に登場しても、ゲームスピードは殆ど落ちない。自機の発射するレーザーは虹色に輝き複数の光跡をディスプレイ上に残す。さらに自機は滑らかに変形し飛行形態へ。ハードウェアスクロールを持たないパソコンとしては脅威的なスムーズさで画面が移ろっていく。

  当時のアクション&シューティングゲームはファミコンのようなスプライト、スクロール機能を持つゲーム専用機が開発に有利と思われており、PC88等のパソコンはそれらをプレイするのには不向きなハードだった。
  しかし、SRとテグザーは、そんな固定観念を覆し、パソコンはホビーユースにも十分耐えうるハードである事を示したのだった。
  そして、なによりも、FM音源3音で奏でられるBGMの美麗な事!  それまで標準だったSSGやPSGのクォリティを圧倒する音色の美しさ、ゲームのBGMも新時代に移行した。

  しかし、ゲームアーツはSRの機能デモの為にこのゲームを作ったのではない。テグザーはシューティングゲームとしても優秀なバランスを備えており、この点でも一流のソフトだったのだ。

  PC8801mk2SRの実力を知らしめたテグザー。しかし、SRシリーズの終焉まで、テグザーは常に上位にランクされうる優秀なゲームだった。
 

シルフィード

  88SR上に於いて、ポリゴン表現を具現化した俯瞰型の擬似3Dシューティングゲーム。実質上はスターフォースのような2Dシューティングである。

 あまりに高速なキャラの動き、自分は密かにポリゴンではなくポリゴンレンダリングを使用した書き換え技術ではないかと今もって疑っている。しかし、後期88SR用のゲームには、スタークルーザー等の完全なポリゴン3Dシューティングも存在するので、一概にシルフィードはポリゴンでないとは言い切れない。

  多面体で描かれたクールな自機と敵機が、美しい宇宙空間で高速ドッグファイトを繰り広げるその様は、自分たちが想像していた「これぞコンピュータゲーム!!」という理想像を現実化した最高のパフォーマンスだった。

  迫りくるエリアボスを倒し、敵要塞の中に突入して中心部を破壊する。これらの表現が全て多面体の立体的構成物で展開されるのだ。当時主流であったファミコン等の平面表現に馴らされていた自分たちには、堪らなく新鮮で衝撃的だった。
  敵の大ボスが、発音は極めて悪いながらもこちらに向かって喋りかけてくるのも驚きだ。

  ゲームのシステム的に見れば、それ程突出した所もないオーソドックスなパワーアップ型シューティングゲームなんだけれども、そのスピードとグラフィックには圧倒されたものだ。今遊んでも十分楽しいよ。

  後に大幅にグラフィックを強化してメガドライブのCD−ROM版に移植された。たしかにグラフィックは超絶凄かったが、ゲーム性が全く変化していなかったため、評価は肯定論と否定論に真っ二つに分かれた。

ぎゅわんぶらぁ自己中心派シリーズ

  普通のコンピュータ麻雀が脱衣等のお色気方面と、正統派のストロングスタイルで二分されがちなのに対し、人気麻雀漫画のキャラを使って破天荒に仕上げた麻雀ゲームの大傑作。

  普通の麻雀ゲームがツモ操作を割と隠したがるのに対し、このゲームでは「ツキありモード」というツモ操作の行われる機能を堂々と売り物にしていた。

  この機能をONにすると、登場キャラは正しく漫画通りの活躍を見せるのだから面白い。

  ゴッドハンドは聴牌即リーから一発ツモを繰り返していつのまにやら八連荘。
  バッドハンドは配牌の悪さと引きの弱さに苦しみながらも純チャン、国士系で一発逆転を狙う。
 勝ち過ぎの金蔵は字牌役牌を暗刻で持って混一色系、字一色で満貫、役満をどんどん上がりながらも、敵に振り込んでしまうと以後勢いがパッタリ止まる。
 ソニー君は独自の感覚で高い技術の打ち回しを披露するが、彼を面子に入れると牌がVHSサイズとベータサイズに分かれてしまうのでややこしい。
 そして主人公持杉ドラ夫はピンフを主体としたオーソドックスな打ち回しながらも、攻守ともにバランス感覚に優れ、引きも強くてなかなか太刀打ちできない。

  麻雀ゲームの一つの完成系を示したとも言えるこの大傑作は、88SRで発表されるや否や、ファミコン、メガドライブ、スーパーファミコン等の主要な家庭用機にまで移植され、高い人気を誇るロングセラーとなった。

  かく言う自分も、麻雀の役を覚えたのはこのゲームがきっかけである。しかし、ゲームで覚えたので未だに符&点数計算できんけどね・・・。
 
 

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