私的TVゲーム批評第六回

昔のプログラマー達の超絶技巧プログラミングゲーム(ファミリーコンピュータ編)

  現代のパソコン、及びゲームハードはソフト技術よりもハードの進歩スピードの方が圧倒的に早く、プログラムのノウハウやテクニックが蓄積する前に開発環境が激変してしまう。

  勢いソフトの質もハードの性能を頼んだ練り込みの浅いモノになってしまいがちで、一昔前のように優秀なプログラマが腕によりをかけた超絶技巧ソフトというのは発売されにくくなっている。

  ここでは、ちょっと前のプログラマ達がハードの性能をしゃぶりつくして作ったパガニーニ、リストの曲のようなゲームソフトを取り上げてご紹介したい。この回は、任天堂ファミリーコンピュータを取り上げる。
 
 

ファミリーコンピュータ(ファミコン)の概要

  任天堂が1983年に発売した家庭用テレビゲームの傑作機。
シャープの技術者が発案したものだが、家電メーカー内部ではその価値が認められず、玩具メーカーの任天堂にアイデアを持ち込んだ結果、採用されて世に出る事になったという経緯を持つ。

  CPUには68系に連なる6502相当品を採用、Z80搭載機が中心だった当時のホビーマシンとは一線を画した。

  従来機のほとんどが一つのスプライトにつき一色で表現していたのに対し、ファミリーコンピュータは一つのスプライトに対して四色を同時に使用する事ができた。これにより、従来のゲーム機では考えられないような美しいキャラクタを画面上で動かす事が可能になる。
  更には、ハードウェア上でのスムーズスクロールを実現しており、発売当初はそのグラフィック性能の高さで周囲に衝撃を与えた。かく言う自分も当時は小学校の高学年だったが、ゲームセンターと殆ど遜色の無い「ドンキーコング」等の画面を見るにつけ、なんという高性能機が発売されたのだろうと驚きを禁じ得なかった。

  他のライバル達がパソコン機能にも色目を使い、ベーシックなどの言語を標準搭載していたり、オプションで発売していたりしたのに対し、徹底的に余分な機能を排除してゲーム機たらんとした設計も見事だった。(後にファミリーベーシック等を発売して結局同じ道を辿る事になるのだが…。)

  また、それまでのマシンに主流だったジョイスティックを、操作性の悪さからあえて採用せず、ゲームウォッチ時代に培ったコントローラー技術を駆使して、十字キーを使用したジョイパッドを開発した。
  こうして、高いグラフィック機能、取っ付きやすさ、抜群の操作性と、ゲームマシンとして非の打ち所の無い性能を実現し、テレビゲームの歴史的革命児となった。
 

  よく、「ファミコンが成功を収める事ができたのは、セカンドパーティとしてナムコが参入したからだ。」と言われるが、当時をリアルタイムに体験した世代の実感としては、ナムコ参入以前から、ファミコンの性能、遊びやすさ、発売されるゲームのクォリティは群を抜いて突出しており、他のゲーム機に比しても「勝負あった」感は非常に強かった事を申し添えておく。

  折りしもアメリカではファミコン発売の2年前ほどに、かの有名な「アタリショック」と言われるテレビゲームの異常な販売不振で市場が沈滞化しており、既にテレビゲームは「終わった産業」として看做されていた。
  しかし、ファミコンがそれを完全な誤りであった事を証明する。ファミコンの成功以後、テレビゲーム業界は世界的市場において日本が完全に主導権を握る事となり、質、量ともに圧倒的に強力な輸出産業へと成長する。

  ファミコンは、家庭用テレビゲーム機がクリエイターの創作意欲をようやく満たすレベルに達したという点においても、非常に意義深いマシンだった。
 

  そのファミコンのもとには、ナムコ、コナミ等のゲームセンター上で実力を振るっていたメーカーがセカンドパーティとして参加し、数々の名作ゲームをファミコン上で開発。後にエニックスやスクウェアといったパソコンゲームメーカーも参入するに及んで、人気は大爆発。「ファミコン」はテレビゲームの代名詞ともなった。
 
 

  任天堂は、危ない橋をわたらない堅実なメーカーという印象が強いが、実はそうでもない。ファミコン時代にも、ファミリーベーシック、ディスクシステム等の新機軸を次々と打ち出し、その都度中途半端な成果しか挙げられずによくコケていた。ファミコンとそのソフトの圧倒的なシェアに支えられてこその実験行為だったとも言える。
  しかし、その中から、ファミリーロボット(AIBOの祖先??)ファミリートレーナー(DDRの先駆的存在??)等の後世に繋がるようなユニークなアイデアが生まれていた事も事実である。
 

  87年PCエンジン(NEC)、88年メガドライブ(セガ)と驚異的な性能を持つ次世代機が発売されてからも、ファミコンはそれらと互角以上の勝負をつづけた。
  91年に任天堂がスーパーファミコンを投入してからもなお、廉価版などが発売されて現役機として健闘を続け、粘りに粘った。ファミコンの新作発売がなされなくなったのは、実に1993年前後の事である。

  迫る2世代後のライバル機達、セガサターンとプレイステーションの足音を間近に聞きつつ、この歴史に残る偉大なゲーム機は、表舞台より静かに姿を消していった。
 
 
 

F1レース

  ファミコン発売より暫らく間を置いてから発売された、初期レースゲームの傑作。
  特筆すべきは画面上のコースを表現する際のラスタスキャン。この機能はもともとファミコンの時計機能かなんかに付随するものだったらしい。(はっきりした事わかんなくてごめん。)
  別に画面表示を前提とした機能ではなく、内部処理の一種だったらしいが、任天堂のプログラマがこれを利用してレースコースの表示に応用できる事に気がついた。

  こうして出来上がったものが「F1レース」で、従来の家庭用レースゲームよりも遥かに細かいコーナーのR再現を行なえるようになった。

  BGMのメロディも良く、秀逸なゲーム。しかし近現のDCやPS2の超絶リアルなレースゲームを思えば、技術も遠くへ来たものだと感慨深くさせるものがある。しかし、このゲームは、確実に今のレースゲームに繋がる源流の一つなのだ。
 
 
 

ゼビウス

  ナムコより発売された同名のアーケードゲームの移植作。オーソドックスな縦スクロールのシューティングゲームだが、当時としては超絶に美しいグラフィックと、敵を地上爆撃と空中攻撃の二種類にわけて倒さねばならない戦略性が受けて、爆発的ヒットとなった。

  ファミコン版は、特徴的なナスカの地上絵などは容量の関係からか削除されていたものの、敵キャラの動きや隠れキャラの位置などほぼ忠実に再現。家庭用ゲーム機では群を抜く美しいグラフィックと合間って、ファミコン人気を不動のものとした立役者になった。

  バックグラウンドには緻密なストーリーが存在し、その謎解きも含めて話題となる。製作者の遠藤伸幸は一躍スタープログラマーの仲間入りをした。
(彼はこの当時、「笑っていいとも」の「テレホンショッキング」に出演するのが夢。」という、今から考えれば相当痛い事を話していた。未だにゲームクリエイターがテレホンショッキングに出演した事は皆無なので、彼の夢が如何に無謀か分かるだろう。もっとも、鴻上尚次をゲームクリエイターとして認めるなら話は別だが。)
 
 
 

スターフォース

  テーカン(現テクモ)が開発した人気アーケードゲームを、ハドソンがファミコン向けにアレンジしたもの。

  この時期の縦スクロールシューティングと言えば、空中攻撃と地上攻撃を分ける「ゼビウス」流のシステムが市場を席巻していた。「スターフォース」は、そこを逆手にとって地上物と空中物を一種類の武器で打ち壊せるシステムを採用し、かえって新鮮な面白さを引き出して高い人気を集めた。

  ファミコン版も美しいグラフィックをキープしており、縦長画面だったアーケードのレイアウトを無理にとる事はせず、横長画面に変更して手堅くゲームバランスを練り直した。

  地上物や空中物を一定の法則のもとに破壊すると、大きなボーナス点が加算され、子供たちの競争心を煽った。連射がクローズアップされ、高橋名人らが世に出てくる下地を作ったのもこのゲームである。
  不満点は、アーケード版からの移植に際し、ゼビウスと同じくまたもや特徴的な地上絵がオミットされていた事だった。ファミコンは背景にタイルパターンを多用するため、地上絵の様な複雑な図面を書くのは苦手だったようだ。

  この点のみはセガSGシリーズの「スターフォース」の方が勝っていたと言えよう。
 
 
 

ドルアーガの塔

  アーケードにて超絶難度を誇ったアクションRPGの秀作をファミコンに移植したもの。開発はナムコ、遠藤伸幸。

  よせばいいのにアーケードの無茶な難易度をそのまま家庭に持ち込んだ問題作。幸いにしてこの当時の少、中学生にはゲーム馬鹿がごろごろ転がっていたので、あきれるような情熱で皆次々と最上60階へ到達していた。このゲームくらいから攻略本も定着し、ぬるいゲーマー達への救済措置も図られるようになった。但し、「ドルアーガ」は攻略本を見て解いても、「中の上」くらいの称号は十分に与えられる程、難度の高いゲームである。

  しかし、今の世の中発売されたら「クソゲー」呼ばわりされかねないゲームだと思うぜ。
 
 
 

ドラゴンクエスト3

  現在もなお、ドラクエシリーズ最高峰の呼び声高い傑作RPG。高いフレキシビリティ、重厚なシナリオ、秀逸なBGM。どれを取っても当時からずば抜けた完成度を誇ったゲームだった。バッテリーバックアップを採用し、パスワード地獄からプレイヤーを救った功績も大きい。(この手法はMSXでT&Eが「ハイドライド2」に使ったものがはしりだが。)

  自分はこの頃アンチファミコン派だったので、実は未プレイ。友人宅でゲーム内容とエンディングを見せてもらった経験をもとに言わせてもらえば、そのエッセンスだけを味わった限りでも、「ドラクエ3」が他のゲームとは一線を画す大傑作である事は十分に理解できた。
  このゲームをリアルタイムでプレイできた人間は幸せだろう。未体験の人間も、今から触れても遅くないと思う。スーパーファミコン等にも移植されているので、まだ入手方法はあるはず。
 
 

ファイナルファンタジー

  当時新進気鋭のメーカだったスクウェアが、打倒「ドラゴンクエスト」シリーズを目指して放った渾身の大作RPG。キャラクターデザインに天野喜孝を起用し、戦闘シーンのレイアウトにも主人公キャラと敵キャラが向かい合う斬新な手法を用いた。この辺はグラフィックにこだわるスクウェアの面目躍如たる所。

  音楽もスクウェア生え抜きの名物作曲家植松氏の手腕がスパークし、印象深い作品に仕上がっている。
  健全な頃のスクウェアの若々しいエネルギーが詰まった逸品。

  まさかこの頃は、9まで続編がでるとは夢にも思わなかった。

「ロッキー」を軽く越えた今、FFが狙うのは「寅さん」の座なのだろうか。内容の凋落も「寅さん」ばりか。
 
 

女神転生2

  アトラス開発、ナムコ発売。[デビルサマナー」、「ペルソナ」シリーズとして今に続く人気RPGシリーズの第二作。前作を遥かに凌駕するスケールと登場モンスター数の多さにおいて超弩級のスケールを誇った。ただし、難易度はめちゃ高。攻略本がないとやってらんねぇー。

  ストーリーやシステムは非常に面白い。悪魔合体システムも前作に比して遥かに洗練され、このゲーム最大の見せ所となっていた。

  「女神転生」は、小説とOVAが原作としてあったのだが、この「2」にて、それらを凌ぐ世界観を構築した。いまや、原作者が「デビルサマナー」等のノベライゼーションを手がけている時代だ。ゲームという表現技法も本当に侮れない。
 
 
 

キャプテン翼2

  「少年ジャンプ」の人気漫画「キャプテン翼」を原作に、オリジナルストーリーを採用した第二弾。前作で原作の「ジュニアユース編」を完全再現していたので、今回は原作に無い「ユース編」を創作して、さらに話を続けた。

  いやぁ、原作よりストーリー面白いかも知んない。登場するライバルも個性的、さらには翼と早苗の恋の行方にも一応の決着をつけているという念の入れ様だ。

  このあと、原作者の高橋陽一はジャンプ誌上で連載を再開するんだけど、正直言ってゲームほどストーリーが面白くなかった。それでも、翼のライバルとして、ゲーム中のキャラからカルロス・サンターナを登場させているのは原作者のゲームに対する精一杯の好意といっても良いかもしれない。

  サッカーのゲームシステムも、オフサイドがない以外は、まずリアルなルールにのっとったもので、ぐりぐり動くファミコンのスプライトアニメーションが「キャプ翼」の世界を余すところ無く完全再現していた。
  ここらへんはファミコン末期で、かのハードを十分に知り尽くしたプログラマー達が腕を競っていたような印象がある。
 
 

ファミリースタジアム‘94

  ナムコの、ファミコン野球ゲームの最終形態。各球団と選手はもちろん実名、選手一人一人の守備範囲と肩の強さまで再現した完全版。

  ファミスタの素晴らしいところは実戦さながらのテクニックと作戦を使用できる所。自分のコントローラーのさじ加減で、流し、引っ張り、ゴロ打ち、フライ打ち、全てのバッティングが再現できる。
  ピッチングにしてもそうだ。長打を警戒して外角ぎりぎりに投げた球が、ボール一個分内側に甘く入り、ロングヒッターに痛打された時のショックは、草野球のマウンドでがっくり項垂れる心境と全く一緒。
  野球という本質を全てにおいて再現した奇跡のゲームといっていい。

  ボールの打った投げたのスピードも、昨今の野球ゲームなど問題にならないくらい超高速で、軽快なゲームが存分に楽しめた。

  事実上、これを越える野球ゲームは未だに登場していないといっていい。直系の子孫である「ワースタ」だろうが、現代野球ゲームのスタンダード「パワプロ」だろうが、まったく及んでない。

  ファミスタの弱点といえば、縦の変化を十分に再現できない事だろう。初代ファミスタ開発当時、プロ野球はシュート、カーブ時代。だから横変化さえツボを押さえておけば縦の変化球は「消える魔球」扱いでも全く問題なかった。

  だが、今のプロ野球はスライダー、フォーク全盛である。変化球の落ち方にしても、マリナーズ佐々木のように速球がズドンと真下に落下するフォーク、タイガース野茂のように打者の手前で急激に失速しフワリと落ちるチェンジアップのようなフォーク、ジャイアンツ桑田のようなブレーキが効き浅く落ちるSFF、打者の外角にグイーンと逃げ落ちるドラゴンズ山本昌のスクリューボール等と、千差万別。

  ファミスタのシステムではこれらを十全に表現しきれない。コナミのパワプロは、そういう弱点を克服したゲームであるが、同時にファミスタの良さである打者と投手の駆け引きの面白さを減じてしまった所がある。
 
 
 

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