私的TVゲーム批評第五回

昔のプログラマー達の超絶技巧プログラミングゲーム(セガマーク3編)

  現代のパソコン、及びゲームハードはソフト技術よりもハードの進歩スピードの方が圧倒的に早く、プログラムのノウハウやテクニックが蓄積する前に開発環境が激変してしまう。

  勢いソフトの質もハードの性能を頼んだ練り込みの浅いモノになってしまいがちで、一昔前のように優秀なプログラマが腕によりをかけた超絶技巧ソフトというのは発売されにくくなっている。

  ここでは、ちょっと前のプログラマ達がハードの性能をしゃぶりつくして作ったパガニーニ、リストの曲のようなゲームソフトを取り上げてご紹介したい。この回は、セガのマーク3を取り上げる。
 

セガマーク3の概要

  セガが放ったコンシュマーゲームハードの第三弾。1985年発売。ファミコンに対して完全劣勢を強いられたセガが、シェア拡大の為にグラフィック機能を大幅に強化して発売したゲームハード。

  最大の特徴は、これまで1個につき1色しか扱えなかったスプライトに、最大16色までのパレットを使用できるように改良した事。これはファミコンの4色に比べて4倍もの強力な表現力を得た事になる。
  さらには背景に使用できる発色数も飛躍的に向上し、1985年当時では、文句無しに最強の家庭用ゲーム機であった。

  後に、当時クローズアップされていたゲームミュージックの再現にこだわる為、FM音源ユニットを発売したり、多分に実験的要素が強かったものの、3D立体ゲーム用の特殊メガネを発売したりと、ゲームマニアの心をくすぐる周辺機器も多かった。

  セガ特有の技術偏重の傾向が明確に見え出したのはこの機種からである。
TVゲームを従来の遊びの延長として捉え、プレイアビリティにこだわる任天堂とは明確に一線を画し、セガのアイデンティティともいえる技術偏重主義を前面に押し出した本機は、マニアの心を鷲づかみにしたものだった。

  しかしその反面、不動の人気を誇っていたファミコンの牙城を脅かすには全く至らず、セガ家庭用機の伝統として、「隠れた名機」と呼ばれる程度の成果しか挙げる事が出来なかった。

  しかし、この機体が熱心なTVゲームのコアユーザーを育成し、海外においては「セガマスターシステム」の名前でロングセラーを誇った事を考えると、ゲーム史上非常に意義の深いマシンであった事が理解できる。

  なお、後に日本でもFM音源ユニットと連射機能、3D立体メガネアダプターを機体に内臓した「セガマスターシステム」が発売されたが、これは性能的にはマーク3と同等のもので、マイナーチェンジの域を出なかった。

  また、本機は過去のSGシリーズと互換性を保ってはいたが、グラフィックチップが従来のものと違っていた為、SGシリーズのゲームを起動させると色がくすんでしまうという弱点を持っていた。

  1988年に後継機のメガドライブが発売されると、メガドライブが互換を保っていなかった事もあって急速にシェアを失った。1989年頃にはほぼ完全に姿を消す。
 
 

ハングオン

  SGシリーズのマイカードシステムを引継ぎ、カードで発売された初期のマーク3専用ゲーム。

  人気アーケードゲームの移植作で、画面の美麗さはそれと比べても遜色がなかった。
SG時代には不可能だった画面のラスタスキャンを活用したレースゲームで、ファミコンのF1レースなどに対抗できる事を十分に誇示した逸品と言える。
  しかし、この頃のゲームはマーク3機能のデモンストレーション的色合いが強く、ゲーム性の考慮は二の次だったような気がする。

  なお、アーケード版に存在したノリの良いBGMはタイトル画面時にしか流れず、ゲーム中はエンジン音しか鳴らなかった為、ゲーム音楽愛好派にはかなり不評だったようだ。
 
 

テディボーイブルース

  これもマーク3初期のカード型カートリッジ。

  当時新人アイドルだった石野陽子(!)のデビュー曲「テディボーイブルース」をBGMに聞きながら、覆面男やら達磨やら獅子舞をやっつける訳の分からんアクションゲーム。

  キャラクターの美しさとスクロールの滑らかさはマーク3の性能を見せつける格好のデモンストレーションだったが、ゲームバランスもよく、面白いアクションゲームだった。

  これもアーケードからの移植版だがゲーム画面は全く遜色がなく、マーク3の底力に驚愕した記憶がある。ただし、容量の関係で石野陽子がゲームキャラクターと一緒に歌うデモ画面はバッサリ削られていた。

  後年、メガドライブにミニゲーム扱いで移植されたようだが、版権の関係からかBGMが変更されてしまっていたようだ…。落涙。
 
 

ファンタジーゾーン

  マーク3発売当初の興奮が覚めやり、皆が冷静になってみると、性能こそファミコンを上回ってはいるものの、ゲームの面白さに関しては当時全盛期のファミコンに全く敵っていなかった事に気づいた。

「なーんだ」という落胆が心中を占め、「やっぱりセガは任天堂には歯が立たないのか・・・。」と諦めかけた時、MSXで普及し始めたメガビット級の大容量ROMを使用して、もの凄いゲームがマーク3で発売された。

  セガ渾身のシューティングゲーム、ファンタジーゾーンである。本作もまたアーケードからの移植作品で、正直言ってそれと比較すればいささか見劣りがする。
  しかし、キャラクターの可愛らしさ、パステルカラーの背景の美しさ、個性的なボス敵の攻撃など、どれを取っても当時の家庭用ゲーム機の水準を遥かに上回る素晴らしい出来で、これ程のゲームが家庭用機で遊べるという事自体、非常に衝撃的な出来事だった。

  後にサン電子の手によってファミコンにも移植されるが、それなりに好移植だったものの、操作性は悪くなっていた。なにより、グラフィックの美麗さに関してはファミコンなど、マーク3の敵ではないのだ。
 
 

北斗の拳

  これもメガロムを使用した伝説的名作ソフト。

  少年ジャンプで大人気の連載漫画「北斗の拳」を、主人公ケンシロウの兄であり最大のライバルであるラオウを倒すまでのストーリーを完全再現した格闘ゲーム。

  グラフィックは美麗で原作の雰囲気をよく醸し出しており、忠実なストーリーと合間って「北斗の拳」世代の自分たちを興奮させたものだ。

  倒すボスキャラによってダメージを与える攻撃方法、手順がすべて違うという激辛難易度で、コツを知らねば1面目のシンを倒す事すら覚束ないだろう。しかし、当時少年だった自分たちの世代のゲーマーは情熱とパワーにおいて比類なき強兵揃いであり、エンディングまで到達する猛者も決して少なくはなかったのだ。

  自分たち軟弱ゲーマーは、それら猛者の後ろに従ってゲームを見守っていただけなのであるが、最後のボス敵ラオウがケンシロウに破れた後、拳を天に突き上げて「我が生涯、一片の悔いなし!!」と雄叫び、立ち往生する場面を見るにつけては涙なしでは語れない感動を共に享受したものであった…。

  同名のゲームがファミコンにもあるが、あちらはキャラクター人気を見込んだ単なるクソゲーである。あしからず。

(00.4.3)追加

アレックスキッドのミラクルワールド

  仮想敵スーパーマリオかと思われるような名作アクションゲーム。このゲームの主人公アレックスキッド(アレク)は一躍マーク3のマスコットキャラに。

  グラフィックの美しさ、面の展開、キャラクターの可愛らしさ、どれを取っても出色の出来。ゲームバランスの煮詰めこそ若干甘かったものの、仮想ライバルのスーパーマリオに優るとも劣らぬ(ある意味勝っている)素晴らしいゲームだった。

  ここらへんの時期のマーク3メガロム路線はセガの気合が炸裂した名作揃いで、ファミコンを買うつもりが誤ってマーク3を買ってしまった不幸かつ無知な子供さん達を、次々とディープなセガ信者に変えていった。マーク3はコアユーザー育成システムであったとも言えよう。
 
 

スペースハリアー

  ゲームセンターで爆発的人気を誇った3Dシューティングゲームの移植作。アーケード版は自機の操作に応じてシートが上下左右に動作し、体感ゲームと呼ばれて大ヒットを飛ばした。

  ゲーム内容はシンプルで、奥行きのある画面の奥から向かってくる敵を、自機を操作してひたすら打ち落とすというもの。単純ではあったが、巨大スプライトの拡大縮小機能を活用した迫力ある画面は、当時のTVゲーム界にあって革新的なインパクトを備えていた。
  敵キャラクターのデザインも抜群によろしく、ゲーム史上に残る金字塔と言っていいだろう。後に数多くの亜流を生んだ事からも、このゲームが与えた影響力の大きさを窺い知る事が出来る。

  マーク3への移植は正直言って無理だろうと思われた。スペースハリアーのようなハード機構に贅を尽くしたアーケードゲームの最新作と、登場してから1〜2年を経た安価な家庭用ゲーム機とでは、スペックの違いが大きすぎる。容量的にはメガロムを使用する事で解決出来ても、マーク3には巨大スプライトを扱う機能は全く欠落していたのだ。

  しかし、セガの移植班は、あっと驚く奇策を以って巨大敵キャラの再現を可能にした。巨大キャラクターの表現にスプライト機能を一切使用せず、背景の高速描画によってそれを実現したのだった。
  これはコロンブスの卵。従来は純粋に背景を描画する機能として使われていた部分を、高速に書き換えていく事によってあたかも巨大なキャラクターが動いているかのように見せかける事に成功したのだ。
  これは、以後マーク3で巨大キャラを扱うゲームに定番の手法になっていく。

  当然スプライトを使用したゲーセン版の滑らかな動きには到底及ばず、質落ち感も大きかったのだが、安価な家庭用ゲーム機上でスペースハリアーを再現した事は大変に意義深く、マーク3ファンのみならずゲーセン版のファンからも賛賞の声が上がったものだ。ゲームバランスも丁寧に調整され、遊べるゲームとして十分に仕上がっていた。

  ただ、この頃からマーク3に対する音源の貧弱さが強く指摘されるようになってくる。
アーケードのスペースハリアーはFM音源で作成された軽快なBGMにのって敵をなぎ倒していく快感が売りでもあったが、マーク3に搭載されている音源は昔ながらのPSG音源で、表現力、発生音数共に貧弱。あのノリのいいBGMを再現するには到底至らず、ゲーム音楽を愛好するファンにはフラストレーションが溜まる時期でもあった。
  これがセガにFM音源パックを発売させる布石になっていく。
 
 

アウトラン

  ゲーセンにてまたまた大人気を博した名作。スペースハリアーに引き続き、ムービングシートを使用した体感ドライブゲームの大傑作。
  前作スペースハリアー以上に巨大スプライトの拡大縮小機能をフルに活用した贅沢なゲームで、路側には海やお花畑、岩の絶壁等が登場するのだが此れ全てスプライト機能の乱れ撃ち、美しい画面内のオブジェクト殆どが、スプライトで作成されたものだった。
  BGMもスペースハリアーに比べて一層質が向上し、ゲーム開始時にはなんと3つの曲目から好きなBGMを選んでゲームをスタートさせる事が出来るという凝り様だった。

  マーク3への移植も果敢に実行されたものの、さすがにドライブゲームとなれば地表に道路を表示せねばならず、前回のように背景機能で画面を埋め尽くしてしまうという奇手は使えなかったようだ。
  アウトランの売りである美しい路側の光景は全く無くなり、単に退屈なドライブゲームに変わり果てていた。(但し、路面のアップダウンはなんとか努力して再現していた。)

  では、このゲームの何が特筆すべき事項かというと、マーク3史上において、初めてFM音源に対応したゲームだったという事である。このゲームが出るとともに、8音同時発声が可能なFM音源パックが発売され、マーク3は家庭用ゲーム機で初めてFM音源を主音源として採用したゲーム機となった。(主音源でなければ、ファミコンのディスクシステムで1音のみ採用されている。)

  このようにマーク3に於いて記念すべき作品ではあるのだが、肝心のBGMの出来はどうかと言われると、これがどうしようもなくチープな感じで、FM音源の発声chを単にBGMに割り当てただけ、のように思える酷い仕上がりだった。
  どうも、FM音源の発売は急に決定されたアクシデントであり、それに無理矢理あわせて制作途中のアウトランに強引に採用されたのではないだろうか?
 
 

ファンタジーゾーン2

  セガ唯一公認のファンタジーゾーンの正統な続編。前作の移植で指摘された弱点をほぼ克服し、美麗なFM音源のBGMを付随させた傑作シューティングゲーム。
  マーク3には珍しいオリジナル作品ではあるが、アーケードの移植作と比較しても遜色のない完成度を誇っていた。マップは前作より遥かに広大になり、ゲームシステムも細かいところまで改良され、抜群の仕上がり。

  これをアーケードに逆移植しても、十分にヒットしたのではないか。
 
 

ファンタシースター

  セガゲーム史上に残る名作RPG。当時DQとFFの二本立てで絶大な人気を誇ったファミコンに対抗すべく、セガ開発陣が満を持して放った本格RPG。
  売りは、ダンジョン内部が3D表現化されており、移動すると滑らかにスクロールしたこと、戦闘シーンで敵が派手なアニメーションを展開した事、である。ここでも技術偏重のセガの姿勢が見え隠れしているが、概ねユーザーたちはこのグラフィック処理を大いに歓迎した。

  内容的にはオーソドックスなRPGであるが、主人公が女性である事は当時珍しく、ユーザー達に新鮮な印象を与えた。
  ゲームバランス的にはファミコンのDQやFFには及ばず、伝説的名作としての名前だけが一人歩きして、実際の出来よりも過大評価されている面がある。
  しかし、当時リアルタイムでこのゲームを体験した人間たちにとっては、DQやFFよりも思い入れの深い、良質のRPGであった事は間違いないだろう。

  ちなみに自分が中学時代、このゲームのゾンビのアニメーションの真似をしたら、同じマーク3ユーザーにやたらとウケた。
 
 

覇邪の封印

  ほぼファンタシースターと同時期に発売されたRPGの秀作。パソコン版からの移植作品だがコンシュマー用にシェイプアップされ、とっつきやすくプレイアビリティの高いゲームに仕上がっていた。

  パソコン版と同じく布製マップと主人公のフィギュアが付属しており、なかなか豪勢な作りだった。
  インパクトはファンタシースターに及ばなかったが、ゲームバランス的にはこちらの方が上だと思われる。
 
 

ザクソン3D

  特殊メガネを使用して、立体視を可能にした3Dゲームの第一弾。SG時代の名作を3Dメガネ対応に仕立てた安直なシューティングゲーム。ゲームバランス自体は悪くなかったが、敵キャラの数も少なく、グラフィックもおとなしめで、単調かつ退屈なゲームだった。

  セガは新技術の開発に成功すると、ゲーム性を無視した機能デモのソフトを平気で発売させる癖があるが、本作もその手合いである。

  立体視のからくりは、特殊メガネのレンズに当たる部分に高速で明滅する液晶シャッターを使用して、左右交互にそれを開閉させるという仕組。それにシンクロしたTVが、二重に画像ぶれを起こし、メガネを通すと視差による3D視が可能になるというものだった。

  まあ、ゲーム機における立体視というのは「画面からキャラクタが飛び出てみえる」というよりは、画面に奥行きを持たせる方向(すなわち凹面)のものが多い。だから「立体!、3D!!」という言葉の響きこそ威勢がいいものの、実際は大した迫力などありはしないのだ。
  そう言えば、ファミコンの「とびだせ!大作戦」やら、バーチャルボーイの各ソフトもその口だったなあ。無論、マーク3の立体メガネも御多分に漏れずそれらと同様である。

  ディズニーランドでやっていた「キャプテンEO」のような立体メガネを使えば、凄まじい立体視ゲームが出来ると思うのだが、映画映像とゲーム映像では制作方法に違いがある為か、満足のいく立体視ゲームというのはまだ、登場していない。

  此処らあたりが、次世代ゲームの攻め処ではないだろうか。ポリゴンだけが3Dゲームじゃないぞなもし。
 
 

メイズウォーカー

  3Dメガネ対応のゲーム。立体視が奥行きしか表現できない事を逆手に取って、すごーい奥行きを使った二重迷路を作り上げた。その上で主人公のキャラクターが敵の攻撃をかわして迷路の脱出を試みるという、なかなか斬新な趣向。

  3Dメガネを使用する事にちゃんと意味のあるゲームで、そのアイデアには感心させられる。アクションゲームとしてもまずまずのバランスで、なかなか楽しめる仕上がりだった。
 
 

スペースハリアー3D

  皆が待望したFM音源対応のスペースハリアー。だが、なんと3Dメガネ対応というまことにいらんオプションまでくっついてきた。
  しかも裏ワザを駆使しないと3Dモードから抜けられない為、普通のスペースハリアーをやらせてくれ、というユーザーの希望を尽く蹴り飛ばした珍作とあいなった。
  まあ、3Dグラスを使えば、凹面立体視の出来るスペースハリアーとして遊べるんだけど。

  ゲームとしては難易度は高く、なかなか後半面に進めない、上級者向けの作り。

  肝心のFM音源対応のBGMは、前作に引き続きのメインテーマよりも、むしろこのゲームの為に作られたオリジナルBGMが秀逸に仕上がっていた。
  特に2面のステージを流れるBGMはゲーム音楽史上隠れた名作だと思う。
 
 

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