私的TVゲーム批評第三回

昔のプログラマー達の超絶技巧プログラミングゲーム(MSX編)

  現代のパソコン、及びゲームハードはソフト技術よりもハードの進歩スピードの方が圧倒的に早く、プログラムのノウハウやテクニックが蓄積する前に開発環境が激変してしまう。

  勢いソフトの質もハードの性能を頼んだ練り込みの浅いモノになってしまいがちで、一昔前のように優秀なプログラマが腕によりをかけた超絶技巧ソフトというのは発売されにくくなっている。

  ここでは、ちょっと前のプログラマ達がハードの性能をしゃぶりつくして作ったパガニーニ、リストの曲のようなゲームソフトを取り上げてご紹介したい。今回は、MSXを取り上げる。
 

MSXの概要

  1980年代前半、マイクロソフトが提唱して作った家庭用のパソコン規格。後に規格の権利は姉妹社的立場にあったアスキーに引き継がれる。
  独自にパソコンを製作出来なかった家電メーカーが多く賛同し、当時のPC88、FM7、X1のホビーパソコン御三家に対して十分対抗馬になりうる勢力を築いていた。

  性能的にはパソコンというよりゲーム機に近いスペックで、スプライトなどのアクションゲームに適したハード環境を備えていた。反面、同時期のライバル御三家に対して解像度や処理速度の面で大幅な遅れをとっており、別ハードからの移植の際にはその問題が常につきまとった。

  後にMSX2、MSX2+、MSXturboRなどの後継機を生んだが、パソコン市場の統廃合によって歴史的使命を終え、90年代前半に姿を消す。
 

メーカー概論その1、コナミ

  MSXの主力ソフトメーカの一つ。
  早い時期より自社アーケードゲームの移植に力を入れており、中〜後期にかけては蓄積されたノウハウでMSXオリジナルの凄いゲームを連発していた。
  逆にそこからからアーケードに移植されたものも多く、MSXソフトメーカの中では王者といってもよい地位にあった。
 

イーアルカンフー・イーガー皇帝の逆襲

  イーアルカンフーの続編。アーケードと比べていささか見劣りがした前作を、システムはそのままに内容を練り直し、エネミーキャラクタの加増、多彩な敵の攻撃、グラフィックの強化を図って秀逸な格闘ゲームに仕立て直した。
  前作の主人公リーの息子であるリー・ヤングをプレイヤーキャラクタとし、復活したイーガー皇帝を打倒する為に6人の格闘家と闘うストーリー。
  基本操作と技の内容は変更されていないが、キャラのレスポンスが飛躍的に向上した為、スピーディな戦闘が楽しめた。
  MSXオリジナルソフト。現在はセガサターンとプレイステーションでも体験可能。
 

グラディウス

  アーケードで大ヒットを飛ばしたパワーアップ式横スクロールシューティングゲームの傑作。当然移植作品。

  MSXにて最も早期にメガロムを採用したゲームの一つ。
  メガロムとは、1メガビット(128キロバイト)以上の大容量を持つROMの愛称で、MSX、ファミコン等のゲームの質に飛躍的な向上をもたらした。
  MSXのメガロム採用ゲームには統一されたロゴマークがあったのだが、他社に先駆けてメガロムを採用したこのソフトは、ロゴの制定以前に発売された為、ソフト自体に特にメガロムを誇示するマークが存在しなかった。
  逆にその事実が先駆技術をMSXに惜しげなく傾注したコナミの凄みを物語る。

  ゲーム内容は、スムーズスクロールを苦手とするMSXの弱点を補って余りあるもので、レーザーの威力と対地ミサイルのスピードが二段階にパワーアップしたり、余った容量を使用してのMSXオリジナル面などが用意されていて、ハード性能に優るファミコン版の移植を凌駕する出来だった。
  デモンストレーションでは戦闘シーンを描いた一枚絵がおまけとして用意されており、MSXとは思えない美しい画像に当時は驚かされたものだった。

  現在はセガサターン、プレイステーションでもプレイする事ができる。
 

夢大陸アドベンチャー

  けっきょく南極大冒険の続編だが、最早別物といっていいほどのリファインが加えられ、これまた凄いゲームに仕上がっている。

  前作は単に南極を一周する事だけが目的の氷上を優雅に滑るペンギンののんびりしたゲームだったが、本作は主人公のペンギンが不治の病にかかった恋人のメスペンギンを救うため、さまざまな障害が待ち受ける大陸を横断して万病に効く伝説の果実を求めるというもの。

  各ステージの走破タイムがシビアに計測されており、たとえ果実に辿り着いたとしても規定タイムをオーバーしていると恋人は病で死んでしまうという激辛設定。

  走破する陸地も、氷上、森林、渓谷、洋上、海底、洞穴、成層圏上と変化に富んでおり、障害物や敵の種類も豊富でプレイヤーを飽きさせない。
  音楽の出来も秀逸で、とてもPSG3音からなるMSXの標準音源から発生しているとは思えない素晴らしい出来栄え。
  難易度は非常に高く、イージーモードでも伝説の果実に辿り着くのは至難の業、彼女の命を救おうとするならば、相当なゲームのテクニックを要するだろう。
  しかし、クリアを目的とせずとも、取り敢えずプレイしてて面白いゲームだった。
  MSXオリジナルゲーム。メガロム使用、現在はセガサターンとプレイステーションにて体験可能。
 

グラディウス2

  あらゆるグラディウス続編の中で、サラマンダと並んで最も早期に作られたゲーム。
  グラディウスの名前を冠した続編は、このゲームが初めて。
前作をはるかに凌ぐ仕掛けと激辛の難易度で、当時の優秀なシューティングゲーマー達に挑戦した良作。

  特筆すべきは、MSXの貧弱なPSG音源を補うために、カートリッジ内に6音同時発声のSCC音源を初めて搭載した事。
  SCC音源はPCエンジン等にも搭載されていたものと同じ仕組みで、あらかじめ用意されたいくつかの音色(サインカーブ等)を組み合わせて使用するという仕組みだった。
  音色を一から作る事のできるFM音源には敵わなかったが、矩形波のみの出力しかできないPSG音源に比べれば表現力は遥かに向上していた。

  以降、グラディウスの名前を冠した続編ゲームはアーケード、家庭用ゲーム機へと次々に発表されていったが、その元祖は、このMSX版だった。
  MSXオリジナルゲーム。メガロム使用、SCC音源搭載。現在はSS、PSでプレイ可能。
 

F1スピリット

  トップビューから車を操作するというロードファイターの流れを組むカーレースゲーム。

  国内のGTレースから勝ち上がり、F3、F2レース、ラリーを経てようやくF1カテゴリーに辿り着けるというシステムになっていた。
そのため、F1と名前の付くゲームながら実際にF1レースに参加しようと思ったら相当のやり込みが必要で、この当時のコナミらしい一筋縄ではいかないゲームに仕上がっている。
  ただ、こつこつと成績をあげていけば稼いだポイントで車を強くチューンする事が出来る為、難易度は激辛とまでは行かなかった。なかなかバランスの取れた面白いゲーム。

  トップビューのレースシステムなどは、その後日本物産のF1サーカスなどに影響を与えたものと思われる。
MSXオリジナルゲーム。メガロム使用、SCC音源搭載。現在、MSX以外の機種への移植はなされていない。
 

パロディウス

  当時コナミのゲーム中で活躍していたペンギン、ゴエモン、タコ、ビッグハイパーなどを一同に会し、グラディウスのおふざけ感覚で作られたパロディゲーム。
  以後のパロディウスシリーズ全ての原点となった。

  SCC音源によって奏でられるBGMは、ショパンの幻想即興曲、ベートーベンの運命、ドヴォルザークの新世界など有名なクラシック音楽を茶化したもの。
  敵も当時のコナミゲームの常連だったモアイ像のパロディとか、おふざけの効いたものが多かった。
しかし、難易度は超ハードなスパルタンシューティングゲームで、その雰囲気とのあまりのギャップに、コナミ開発陣の感覚が理解できなかった。
  MSXオリジナルゲーム。メガロム使用、SCC音源搭載。現在はSS、PSでプレイ可能。
 
 
 
 

メーカー概論その2、T&Eソフト

  PC6001mk2などでスターアーサー伝説、PC8001シリーズ他で3Dゴルフシミュレーションを発売するなど、活動の長い老舗のパソコンソフト製作会社。

  主な開発をPC88ベースに移してからは、アクションRPGの大作や斬新なシミュレーションゲームを次々に発表していたが、MSXに移植するのは技術的に困難と思われるソフトばかりだった。
  それでもMSXを見捨てずに、さまざまな技術を駆使して移植版を完成してくれたユーザー想いのありがたいメーカー。
  MSX2発売当初のキラータイトルであるシューティングゲーム、「レイドック」を開発した事でも知られる。

  PC88をメインに活動していたソフトハウスの中では、かなりMSXシリーズに力を入れていてくれたメーカーだったと言える。
 

ハイドライド

  原作はPC8801版。日本ファルコムのドラゴンスレイヤー、コスモスソフトのカレイジアスペルセウスと並んでアクションRPGの定礎を築いた歴史的ソフト。

  魔王に奪われた王女を勇者が奪還するという、ファンタジーの王道をいくストーリーを、アクションゲームの要素を含んだRPGに仕立て上げた大傑作。

  森林に入ったり水路に潜ると、下半身が背景に埋没する重ねあわせ処理が当時のMSXソフト技術では不可能と思われていた。
  さらに当初のカセットテープ版では、MSX標準のRAM容量32キロバイトではマップを収める事が困難だと思われていたため、MSXでの発売は難しい様相だった。
  しかし、MSXのスプライト機能を駆使して重ねあわせ処理を実現し、全画面のマップを圧縮技術を使って32キロバイト以内に押え込んだ。

  後にMSXのソフト技術が向上していくにつれてこの程度の処理はむしろ当たり前になっていくのだが、MSXへの移植など最初から考えられていなかったソフトを、移植完成させた功績は相当大きなものがあった。

  以後、T&EソフトはMSXの主要メーカーとなって行く。テープ版の発売後、より完成度を高めたROMカートリッジ版も発売された。現在、WindowsでPC8801版が復刻されている。
 

ハイドライド2

  原作はPC8801版。さまざまな新機軸を盛り込んだ意欲作ではあったが、日本ファルコムのドラゴンスレイヤー2“ザナドゥ”に対抗するため慌てて発売された、という印象が拭えない。
  PC88mk2SR以降のFM音源にも対応しておらず、ゲーム内容そのものもザナドゥの完成度には及ばなかった。
  しかし、ハイドライドからの正常進化版として、ザナドゥの流儀とは違うARPGの発展型を見せた事は一つの功績ではある。

  MSX版に関しては、マップが前作の数倍と広大で、豊富な敵の種類、様々な仕掛けの再現には膨大な容量を必要としていたため、メーカーからも絶望的なコメントが多く、多くのユーザーも移植はあきらめ気味だった。

  ところが、コナミなどのメーカーが採用したメガロムの使用により、MSXでも従来の数倍の容量を扱えるゲームが作れる状況になってきたため、再び移植の気運が盛り上がってきた。
  最大のネックはゲーム内容を途中でセーブする場所がMSXには存在しない、という事であったが、バッテリーバックアップを組み込んだ擬似SRAMをカートリッジ内に搭載する事により、セーブデータを保持するという荒業を実行、T&E開発陣はこの問題を解決した。
  この手法は以後、MSX、ファミコン双方で標準化していく。

  こうして、PC88版の発売よりさほど間を置かず、旬を外すことなくMSX版が発売された。
  グラフィックこそMSXゆえに多少の質落ちはあったが、PC88版と全く同一のゲーム内容、音楽に至ってはPSG搭載のMSXの方が、FM音源未対応のPC88版より遥かに上で、先端のゲームが遊べるという事実にユーザーは狂喜した。
  この一作で、T&EはMSXユーザーの信頼を完全に勝ち取ったと言えるのではないだろうか。
 

ディーヴァ

  当時のパソコン、ゲーム機の主要機種であった、PC8801mk2SR、FM77AV、X1turbo、ファミコン、MSX、MSX2、PC9801に、同一ストーリー内の登場人物7人を各機種の主人公として割り当て、パスワードによる相互協力を実行して物語の謎の全貌が明らかにしていくという、空前絶後のスケールを誇るSF戦略シミュレーションゲーム。

  一つの星系(機種)に30の惑星群があり、主人公達のディーヴァ艦隊が、敵対するアスラ艦隊と覇権を争い、全ての惑星を制圧してナーサティア双惑星への航路を開く事が目的。
  シミュレーションゲームとしては凡作だと思うが、ストーリーの面白さと壮大さで他の追随を許さなかった。

  強力なグラフィック機能を持ったMSX2はともかく、MSXは他の機種に比べて性能面での劣勢は否めない。ゆえに移植に際し他機種と同様の内容が確保されるかどうか、非常に心許ないものがあった。
  しかし、メガロムを有効に使い、文字のフォントも新たに作り直して、多機種と全く同等のゲーム内容に仕上げてきた。
  惑星制圧戦はアクションゲームモードにはいるので、スプライト機能の活用できるMSXにはむしろ有利に働いた。

  結果的に最もチープな出来になってしまったのは、T&Eに代わって東芝EMIが移植したファミコン版で、戦略部分が全て削られて艦隊戦と惑星制圧戦しか残っていないという酷い内容のものに変わり果てていた。
  逆に最も優秀な仕上がりになったのは、アクションゲームの要素を排してストイックな戦略シミュレーションにリファインしなおしたPC9801版だった。
  MSXは、残りの4機種と同等のクオリティを確保しており、その点ではゲームをしていて不満になる事は全くなかった。

  ちなみに、MSX版の主人公はラトナ・サンバ。X1turbo版主人公アモーガ・シッディの艦隊でエースパイロットを張っていたが、信頼していた戦友に裏切られ、後方から宇宙戦闘機で狙撃される。
  辛くも危機を脱したラトナは、艦隊を脱走した親友を追って、アモーガより戦力の一部を借り受け、真相の調査に出発する。その途上、シヴァ・ルドラ率いるアスラ艦隊と交戦状態に入り、周辺星系を巡って覇権の争いになってしまう。(ここらあたりがゲーム内容。)
  全ての星系を制圧し、親友の裏切りにも関係すると思われるアスラ艦隊の本拠地に乗り込んだラトナは、逆に敵の罠にかかってアスラ邪教のいけにえにされそうになる。
  間一髪でラトナを救ったのは、同じくアスラ艦隊を追って戦闘を繰り返してきたPC88SR版の主人公、ルシャナ・パティだった。二人はアスラ艦隊とシヴァ・ルドラを追ってナーサティア双惑星に向かう。
  そこには、七人の英雄達が最後の戦いに向けて、結集していた。

PC8801mk2SR  ルシャナ・パティ     ストーリー1「ヴリトラの炎」
FM77AV            ア・ミターバ         ストーリー2「ドゥルガーの記憶」
X1turbo               アモーガ・シッディ   ストーリー3「ニルヴァーナの試練」
MSX                  ラトナ・サンバ       ストーリー4「アスラの血流」
MSX2                アクショー・ビア     ストーリー5「ソーマの杯」
ファミリーコンピュータ  マターリ・シュバン   ストーリー6「ナーサティアの玉座」
PC9801            クリシュナ・シャーク ストーリー7「カリ・ユガの光輝」

そして、ナーサティア双惑星より、アスラ軍の最強兵器である人工有機体ヴリトラがっ!!
って、ストーリー書いてるだけで、燃えてくるものがある。
 

スーパーレイドック

  MSX2発売当初にキラータイトルの一つとして開発されたシューティングゲーム「レイドック」のMSX1への移植版。
  MSX2版が前評判の割にはグラフィックの美麗さだけで勝負していた(それでも当時のシューティングゲームとしては十分水準)のに対し、MSX版では当然グラフィックの質落ちはあるものの、ゲームバランスを練り直し、シューティングとしての面白さをより向上させた作品となった。

  選択できる武器の幅も広がり、2人同時プレイのシステムも改良されてさらに遊びやすくなるなど、オリジナルのMSX2版をあらゆる面で上回る出来栄え。

  なお、敵のボスキャラにヴリトラが登場したり、カートリッジスロットの2側にディーヴァのROMを差すと新たな機能が付随されたりと、ディーヴァストーリーとの関連性も伺えた。(MSXシリーズの高級機種は、ROMカートリッジのスロットが二つあるという特徴があった。)メガロム使用。
 
 

メーカ概論その3、光栄


  歴史シミュレーションの老舗。名作、「信長の野望」でこの分野の定礎を築き、以後次々と意欲作を発表して自らの地位を不動のものにせしめた。
  MSXシリーズに対してもほとんどのタイトルが発売され、移植されていないゲームはむしろ少なかったのだが、メガロム等の技術が確立する以前は、強引で情けない移植もあった。また、MSX2への全面シフトも早く、MSX1への開発努力の傾注は薄かったと言える。
 

三国志


  「信長の野望」、「蒼き狼と白き雌鹿」に続く歴史シミュレーションゲーム第三弾として、PC8801版を皮切りに発売された歴史的名作。
  総登場人物255人、軍師の助言制度など三国志時代の雰囲気を余す所なく完全再現。光栄自身、このシステムを上回るシミュレーションゲームは未だに作る事ができていない。

  MSXへは、完全移植を成し遂げた「信長の野望」、信じられない駄作移植になった「蒼き狼と白き雌鹿」(伝説のジャンケン戦闘)と、過去、成功失敗の交互する移植内容で、最大スケールを誇る三国志が如何に再現されるのか、注目される所だった。
幸い、メガロムの使用が普遍化してきていた為、容量的にはさほど問題はないはず、しかしHEX戦闘シーンの再現や地図上の勢力範囲の色分けなど画面表示に頼る所も多く、MSX版の再現が危ぶまれる部分も多かった。

  登場してきた待望のMSX版は、メガロムを使用、三国志のエッセンスを完全に残しながら、必要性の薄い機能を削ぎ落とした秀逸なものだった。

  コマンド体系を整理し直し、使われる事の少ないコマンドを削除しながらも、登場人物255人は完全再現、軍師の助言制度もしっかりと移植され、ほぼ不満のない出来。
  HEX戦闘シーンは画面に収まりきらない部分はスクロール処理によって克服され、計略は寝返り等のコマンドが削除されて火計のみが残された。この結果、かえって戦闘のゲームバランスが向上したような気がする。
  勢力地図の塗り分け、各武将の顔グラフィックスも、MSXがゆえに簡素化されながらもちゃんと移植されており、なにより敵の思考処理の速度もゲームプレイに支障ない程十分に確保されていた。

  のちにグラフィックを多機種と同様に向上させ、コマンド体系も原作と同じくしたMSX2版が発売されたが、グラフィック強化のつけは処理速度を著しく圧迫し、MSX版よりもプレイにストレスの溜まるゲームと化していた。これはメーカを問わず、MSX2で思考型ゲームを作る際の最大の問題点だった。
 

信長の野望・全国版


  原作はPC8801版。前作「信長の野望」が、中部地方を中心とする17ヶ国統一に限られていたのに対し、東北や中国四国、九州の大名でプレイしたいというユーザーの要望に応えて登場した光栄戦国物の第二弾。

  登場武将は君主のみで、寿命と争いながら日本全国50ヶ国の天下統一を目指す。ゆえに周辺情勢が如何に有利でも、老齢の毛利元就や島津貴久ではクリアは非常に困難となってしまう変なゲームだった。しかし、ゲームバランスは悪くなく、概ね好評を得ていた。また、選択した地方によって、ゲームの言葉遣いが違う方言モードというユニークな機能が採用されていた。

  MSX版は、君主の顔グラフィックス、地図の勢力範囲分け、HEX戦闘シーンの再現など、メガロムを使用し、三国志によって確立された手法で手堅く、手慣れた様子で完璧な移植。コマンド内容などもPC8801版と変更のない完全なもので、思考速度も速く、全く不満のない出来。方言モードが削除されていたのが最大の弱点だったが、それを除けば非常によく出来たMSXソフト技術の完成型といってもよかった。

  グラフィックを強化したMSX2版も発売されたが、処理速度の点でMSXに遠く及ばずプレイアビリティは遥かに低下していた。しかし、この全国版を最後にして、光栄のゲーム開発はMSX2に移行してしまう。せっかく溜まったノウハウが利用される事は以後なく、ユーザーとしてはちょっと残念だった。
 
 

メーカー概論その4、エニックス


  ファミコンのドラクエでその名を不動にしたソフト販売会社。それ以前もPC6001などで「ポートピア連続殺人事件」などを発表していた老舗のソフト販売会社。
  コニカなどのフィルムを製作している小西六が親会社で、当初は小西六エニックスという社名だった。

  自社でソフトを開発する事は全くなく、才能ある若手プログラマーや、ベンチャー企業的ソフトハウスにゲーム開発を任せ、自身はプロデュースに徹するという手法で成功をおさめた。
  外注のプログラマーが頼みなので、各ゲームには開発側が技術を持っているか否かでMSX版の移植版が発売されるかどうかの結果が左右された。しかし、MSXへの移植というのは、腕に覚えのあるプログラマーであれば意欲をそそられるチャレンジフルなテーマであったようで、MSXのソフトは結構発売されている。
 

ザース

  パソコンマニアの青年達がPC88を駆使して作った初期アドベンチャーの傑作。特筆すべきはアニメのセル画センスにも匹敵する美しいグラフィックで、特にストーリー冒頭に登場する少女ミリカの美しさは、多くのパソコンユーザーを虜にした。

  MSX版も、移植史上に残るグラフィックの美しさ。MSXの解像度では到底不可能と思われたザースの画面を余す所なく再現し、MSXユーザーを狂喜させた。PC88ら当時の主力機種が基本的に同時発色数の上限8色なのに対し、15色同時発色できるMSXの強みを生かして、解像度の違いを克服した巧みな移植ぶり。少女ミリカの御尊顔も完璧で、文句いちゃもんのつけようがなかった。カセットテープ版、RAM32KB要。
 
 

メーカー概論その5、アスキー

  パソコン雑誌の出版、ソフトの製作、チップ出荷などコンピュータ関連の事業に早期から関わってきた企業。初期の頃は、今をときめくマイクロソフトと姉妹会社のような関係にあった。
  その絡みもあったのだろうか。MSXの世界的な普及が伸びなくなると、提唱者のマイクロソフトより規格の権利自体を貰い受けて、MSXのホスト会社として活動した。当然、MSX用のソフト発売も多く、ゲーム、実用ソフトは問わず多くのタイトルを輩出している。
 

テセウス

  MSXのオリジナルソフト。主人公テセウスが、放射能に汚染された放送局の中をうろついて、お姫様を救出するという、理解し難いバックボーンを持つ単なるアクションゲーム。
  実際はテセウスの名が示すとおり、ギリシャ神話とミノタウロスの宮殿をモチーフにしているものと思われる。

  何よりも特筆したいのは、スクロールの凄さ。MSXはハードの制約上、スムーズスクロールが苦手で、テセウスもまたこのくびきから逃れる事は出来ていない。しかし、走る、飛ぶ、落下するなど主人公テセウスが画面を駆け回ると同時に、ずりずりと動き出すスクロールは徐々に加速していく。
  このゲームのスクロールは、加速、減速の感覚が再現されていたのだ。初動はゆっくり、勢いがついてくるとスクロールも徐々に高速になってくる。

  「酔う」と表現されたこの加速スクロールが、テセウスというゲームの真骨頂だった。テープ版、ROM版にて発売。
 
 

ブラックオニキス2  ファイヤークリスタルを求めて

  サブタイトルである「ファイヤークリスタル」が正式名称の、PC8801版を皮切りに作られたRPG。前作の「ブラックオニキス」ともども、ワイヤーフレームによる3Dダンジョン形式を用いたオーソドックスなRPGである。
  海外RPGの名作ウィザードリィを日本人向けに難易度を落として翻案したようなゲームで、後にテトリス移植などを手がけるBPSが開発した。
「ファイヤークリスタル」の特長は、前作には存在しなかった様々な攻撃魔法が使えるという点。

  MSX版は、前作「ブラックオニキス」の移植ぶりが好評であった為、移植会社のアスキーがユーザーの期待に応えて開発した形となった。
  御多分に漏れず、前作に比べて遥かに大きな地下迷宮と、多彩なモンスターの種類等によってROM容量を圧迫することへの心配が大きかった。
  実際、当時のMSXマガジン等雑誌を読むと開発陣の苦戦が伝えられたものである。そしてこれも御多分に漏れず、メガロムの登場によって問題が解決し移植実現に弾みがついたソフトの一本だった。

  「ファイヤークリスタル」最大の魅力である攻撃魔法のグラフィック表現も、解像度の大きなハンデがありながらも何とか移植、ダンジョン移動や戦闘の処理スピードはむしろ向上し、プレイアビリティの優れた作品となった。
  さらに、他機種版は前作「ブラックオニキス」で作成したキャラクターを使わなければならない為、「ファイヤークリスタル」のみの単独プレイは不可能だったが、MSX移植版はキャラクターメイキング機能を搭載し、単独プレイを可能にした画期的作品となっていた。戦闘シーンのグラフィック質落ちなどはあったが、それを補って余りある優れた点を多く持った移植作だった。

  なお、本家BPSは続編「ムーンストーン」を開発予定だったが、多くのユーザー達の大きな期待をよそに開発は中断、未発表のまま十数年が経過している。
 
 

メーカー概論その6、日本ファルコム

  現名ファルコム。日本で最も初期に開発されたRPG「ぱのらま島」や、瞬間画面表示ルーチンを使用したADVシリーズ等、古くからPC向けのゲームを発売していた老舗のソフトハウス。
「ドラゴンスレイヤー」でアクションRPGの定礎を築き、「イース」シリーズでその人気を不動の物にした。全盛期の時は、パソコンソフト界NO.1の人気と売り上げを誇った。

  MSXに対しては、ノウハウが無かったためか、終焉期になるまで全くソフトを作ってくれなかった。初期の名作「ドラゴンスレイヤー」さえ移植してくれず、MSXユーザーとしては不満爆発。MSXに情けをかけて、ライセンスを取って移植してくれたメーカは、今をときめくスクウェアだった…。

  ちなみにファルコム、MSX2には、ちゃっかり早めに参入している。それの余芸のような形でMSX1のソフトも発売…。
 

ザナドゥ

  パソコン史上、燦然と輝くNo.1売り上げソフト(公称40万本)。未だにファルコムの社長は、「パソコンゲームでここまで売れたソフトがあるか。」と、豪語しているらしい。全くその通りだが、過去の栄光にそこまですがるのも如何なものか…。

  ゲーム自体は超難易度を誇るアクションRPGで、10面の階層から為る地下迷宮を制圧して、最終的にドラゴンを倒す事が目的。別名「ドラゴンスレイヤー2」。
  グラフィック、キャラのデザイン、敵の種類、迷宮の仕掛け、どれをとっても素晴らしい出来。中近東風のBGMも良かった。パソコンソフト史上No.1ゲームの名を辱めない傑作。

  そりゃあ確かにMSX版の開発は難しかろうと思ったよ。期待もしていなかった。でも発売するんならもっと早く出せっつーの。「ハイドライド2」は、PC88版よりたった半年くらいのタイムラグでMSX版が発売された。
  いくらなんでもPC88版より約2年間のタイムラグは長すぎやしねぇか。旬を外しまくり。その一点だけで、自分は「ハイドライド2」に軍配を上げている。

  ちなみにMSX版、移植は確かに完璧でした。ゲーム内容に文句をつけられるような傷は見当たりません。BGMだけは明るめの曲に変更されているけどね。別に原曲使っても良かったんじゃないの?  MSXと同じ音源使ってるはずのX1でもBGMはPC88版と変わってなかったんだから。
  しかし、移植が完璧なだけに、旬を外した発売時期に皮肉を感じる・・・。
 
 

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