日本物産公認の移植、「バンダイ FL クレイジークライミング」

 液晶表示ではキャラクターは黒一色、加えて太陽や蛍光灯がなければゲーム画面が見えないという欠点。携帯型はどこでもプレイするには最適だが、画面の美麗さを追求したり、もう少しゲーセンのゲームに近い内容で、というチャレンジにはいささか不向きである。

 であるからして、当時はゲームウォッチ型のゲーム機とは別に、単2電池4本とか、6V-ACアダプターを使用した、ミニ筐体型とも言うべきゲーム機も数多く発売されていた。
中心となる表示手法はFL管と呼ばれる電光掲示管で、ネオンサインとだいたい同じ仕組みである。
 これだと黄色、緑色、赤色、白色等の複数色が使え、表現の幅は大きくなる。また、上からカラーフィルムをかぶせることにより、さらなる発色も可能だ。
画面も大きく取ることができ、ゲームウォッチ型では表現できない高度なゲーム内容も再現可能である。

 今回取り上げるのは、この手のミニ筐体の中でも高級な部類に入る「クレイジークライミング」である。
バンダイはFL管では、非公認ながらパックマンの移植である「パックリモンスター」を製作している。これがパックマンの移植においてはほぼ最高傑作と言ってよいもので、軽快なサウンド、小気味よいスピード、抜群の操作性、と「パックマンをやりたい!」と熱望する少年達の要求を完全に満たす完成度の高いものであった。

 この後、バンダイは日本物産からライセンスを取って、アーケードゲームの「フリスキートム」をFL管ゲームに移植する。
これはFL管ゲーム史上最も美しいグラフィックと称されるほど、水道管を流れる水が見事に再現され、ゲーム性の移植もなかなか良好であった。
「フリスキートム」の見事な移植によって、日本物産と縁の出来たバンダイが、次に移植したのが、同じく日本物産のアーケードゲーム「クレイジークライマー」だった。2本のレバーを操作して主人公を操り、窓をよじ登って200階建てのビルの登頂を目指すという、なんとも特異なゲームである。

 窓からは登頂を妨害しようと、住人が植木鉢を落下させて主人公を狙い、巨大看板のちぎれた電飾が主人公を感電へと誘う。住人が妨害しなくとも、上から鉄骨が落ちてきたり、また、ビルの登頂に先客のキングコングが待ち構えていてパンチを繰り出していたり、しらけ鳥が飛んできてフンをしたりと、ありとあらゆる妨害が主人公を付け狙う。
また、窓が閉まっていると手をかけて登ることができないので、窓が開くまでじっと我慢、というケースも当然のことであった。

 まったくとんでもなくはっちゃけたデザインのゲームであるが、自分はへたっぴの癖にこのゲームがめちゃくちゃ好きだった。小学生はゲーセンには出入り禁止なので、駄菓子屋に置いてある筐体などで挑戦しては即効ゲームオーバーと、そんな浪費を繰り返していた。(もっともおこずかいは月500円なので、そんなに何回も出来ないのだが。)

 これが、なんと、家庭用でできてしまうというのである。驚きと喜び。絶対に欲しい!!と思ったもの。
若干内容が簡略化されていた故か、「クレイジークライマー」そのままの名前ではなく、「クレイジークライミング」と変わってはいたが、2本のレバーは健在で、ビルを登るというコンセプトも不変である。ただ、ビルの階数は49階と大幅に減少させられていたが。

 月の小遣いとは別に、毎年誕生日とクリスマスにはなにがしかのプレゼントを買ってもらっていたので、クリスマスにはこれが欲しいと、思い定めたのではあるが、いかんせん、FL管ゲームの中でも群を抜く値段の高さ。なんと8200円!! 
 FL管ゲームは携帯用に比べてだいたい割高だったが、それにしても6000円台〜7000円台が多く、「クレイジークライミング」の値段は頭抜けている。
いくらクリスマスとはいえ、さすがに親を説得するにはなかなかハードルが高いと感じていたので、一ヶ月くらい前がら、是が非でも欲しいゲーム機がある、かなり値段は高めだけど大丈夫だろうか、一万円まではしない、などなど、事前情報を親に次々といれておき、いきなり店頭で「こんなに高いの!?」と驚かれないように周到に仕込んでいったわけである。

その甲斐あってか、いつもなら到底買ってもらえないような高額商品であったにも関わらず、当のクリスマスでは意外とすんなり、「ああこれが前から言ってたやつね」と買ってもらえたのだった。

本体のみ健在・・・。

現在所有しているものは、当時買ってもらったもの、そのもので、ゆえに説明書や箱は紛失してしまっている。しかし、現在でも稼動可能で、あのころのままプレイする事が可能である。

ゲーム画面。白枠が窓で、緑がかっている窓は閉じていて手をかける事ができない。頭上からはビルの住人が植木鉢を、しらけ鳥がフンを落下させてくるので、かわすか、両手を同じ窓にかけて踏ん張るかのどちらかの手段が必要になる。ビルは表示されるのは3列までだが、実際は5列ある。両端に移動すると切り替え表示される。

レバーの操作が死活を分ける。ひとさし指と親指でそれぞれのレバーをつまんで、というのが基本姿勢だろうが、自分のスタイルは、両手で筐体を丸抱えして、親指のみをレバーの上において上下動させるというものであった。これだと超速でのぼることができる。

ざっつやまぐちすたいる!! 親指の高速上下動で、49階建ビルなど秒殺だ!!

かやくは減ったけど・・・・。

 ビルの登頂を邪魔するものは、植木鉢落下の住人としらけ鳥、それから開閉する窓のみで、アーケード版にあったキングコングも、痺れ看板も、鉄骨も出てこない。しかし、当時の家庭用電子ゲームで、ここまでアーケードの雰囲気を再現したものは、めったになかった。
 それゆえ、小学生という身分でゲーセンに出入りするのがはばかられる立場としては、そのうっぷんを存分に晴らせる凄いマシンだったのである。

当時の状況

 ゲームウォッチとは別軸の高級路線で、色々なFL管ゲームが各メーカーから登場していた。バンダイのFLシリーズは各メーカーFL管ゲームの中でも完成度の高いものが多かった。今でも名作の称号を得ているものが少なくない。
 クレイジークライマーも、最高傑作とまでは言わないものの、FLシリーズの人気を維持するのに大いに貢献したはずで、これだけ値段の高い玩具であるにも関わらず、所持している人間は周りに何人かいたように思う。

 しかし、FL管のゲームというのは本当に丈夫だなあ・・・。操作系も表示系も、本当に壊れにくい。

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