この時期にしてバーチャルボーイを上回る完成度 
「トミー 3D立体グラフィックゲーム スペースレーザーウォー」

 1983年くらいから、トミーより驚愕の電子ゲームが発売された。両目で覗くスコープ型のゲーム機で、左右の視差を利用して、立体視ができるというものすごいコンセプトである。

 上部に採光部のあるカラー液晶システムを採用し、左右で視差分のみ違うゲーム画面を連動させる事によって、立体視を実現するというとんでもない発想。
地表を走る戦車(というか対空用の自走砲)が宇宙戦闘機を打ち落とす「宇宙壮絶戦車戦」、三車線の道路を次々と流れてくる敵車をかわしながら完走を目指す「コスモ・ル・マン」、その他「ジョーズ」「スペースレーザーウォー」などが発売されていて、同級生が「コスモ・ル・マン」を持っていたので、それでさんざん遊ばせてもらった。

 正直、立体視という点から言えば、「コスモ・ル・マン」はそれほど迫力があるわけではなく、控えめであったのだが、三車線それぞれ前から流れてくる敵車のスピードが違い、アクセルワークを上手く行って、ひらりひらりとかわさなければすぐにクラッシュしてしまうというゲーム性はなかなか面白かった。(ちなみに、クラッシュしたときの画面が一番立体視で迫力があった(笑))。

 自分も誕生日に買ってもらえることになったのだが、「コスモ・ル・マン」は同級生が持ってるので、もちろん候補から除外、「ジャングルファイター」や「ジョーズ」は一枚絵を立体視させたような感じで、あまり3Dの威力を感じなかった。
 となれば残るは「宇宙壮絶戦車戦」「スペースレーザーウォー」のどちらかだが、左右3マス分しか動けない「宇宙壮絶戦車戦」に比べて、4箇所移動できる「スペースレーザーウォー」の方が面白いのではないか、とまたもや身も蓋ない選択を実施し、「スペースレーザーウォー」を購入してしまったのであった。
 現在所有しているものは当時買ってもらったものがそのまま残っているので、箱や説明書は残念ながら紛失してしまった。

 「スペースレーザーウォー」は、雰囲気的にはスターウォーズのデススター攻略戦で、デススター表面の溝をXウイングにて突っ切るアレそのものである。自機もXウイングにそっくり。今こんなゲームを出したら、訴訟モノだろう。

 上空から戦闘機が飛来して自機に対して砲撃を行う。地表近くでは燃料輸送機が飛んでいるので、ガス欠になりそうだったら輸送機を破壊して燃料補給に務めなければいけない。全体的にはパターンが単純で、あきやすいシューティングゲームなのだが、こと立体視にかけてはスペースレーザーウォーは、抜群の迫力があった。
 「飛び出して見える」というよりは、「奥行きがある」という感じなのだが、それでもここまでの見事な3Dは、当時の技術においてはすごい、という他はない。


 

 左右の画面を下記に掲載。ゲーム機自体は平行法立体視なのだが、平面状では交差法立体視の方が簡単なので、左右の画面を逆に配置してみた。ぜひ交差法立体視に挑戦して、その奥行きを体感していただきたい。寄り目にしてピントを調節すれば、立体視可能である。ちなみに電源投入時、全キャラ表示の画面。

 下はゲーム中の画面である。

フルカラーで携帯可能なバーチャルボーイ

 1995年に、任天堂の名物男、横井軍平氏の開発した3D立体視の出来るTVゲーム、「バーチャルボーイ」が発売されたが、これが全く売れなかった。

 スコープ型の3D立体視ゲームという点では、トミーの3Dゲーム機と全く同じコンセプトなのだが、バーチャルボーイのコントローラーは手持ちなので、スコープをスタンドに立てて、机などに据え置いて遊ばなければならなかった。

 これでは小型化する意味がなく、携帯して気軽に遊ぶという事はまず出来ない。

 加えてゲーム画面は赤一色のモノトーンで、派手さにも欠ける。ゲームウォッチやゲームボーイのモノトーンは太陽や蛍光灯の明るい光の下でプレイするのだが、バーチャルボーイでは採光部こそ光に当てなければならないものの、基本的にはスコープ内の閉ざされた暗い空間でプレイするので、その内部が赤黒のモノトーンでは、いささか”楽しいゲームをプレイする”という雰囲気作りに欠けてしまう。

 3Dゲーム機の先輩である3D立体グラフィックシリーズは、操作キーを本体上面に集める事で、「ゲーム機を両手で掴む」=「自然に人差し指や中指が操作キーにタッチする」という優れたマンマシンインターフェイスを実現している。首にかけるためのストラップも付属しており、簡単に携帯して持ち運ぶ事ができる上、双眼鏡のように覗き込んで手軽にゲームを始める事が可能である。

 また、画像はフルカラーで美しく、迫力のある3D画像が楽しめる。
 バーチャルボーイより10年以上前のゲーム機であるにも関わらず、部分的にはそれを凌ぐ設計が行われていた事がよく分かる。

 もちろんカートリッジを使用して汎用性の高い機能を有しなければならないTVゲーム機と、単一のゲームを押し込むだけでいい電子ゲーム機では、自ずと構成が違ってくるのは当然だが、10年以上前にこういう操作性の高い3D立体視の電子ゲーム機が発売されているにも関わらず、それを参考にしなかった任天堂の失策は問題視されてもいいと思う。

 光線銃や、ゲームウォッチ、ゲームボーイ等の生みの親で、玩具を開発させたら右に出るものはいないと言われた名人、故横井軍平さんではあったが、御本人の言葉どおり、「枯れた技術の水平思考」を行っていれば、バーチャルボーイもこれほど惨敗しなくて済んだろうに、と思わざるを得ない。
 

当時の状況

 3D立体グラフィックシリーズが発売されたのは1982年前後である。そろそろカセットビジョン等が発売されて、TVゲーム産業が助走を始めていた頃である。それだけに爛熟期にあった電子ゲーム機の技術は高度に磨かれて、各メーカが新しい分野にチャレンジしていた模索期でもあった。

 家庭用TVゲーム機の方で立体視が可能になるのは、1986年、セガMARK3の立体メガネや、ファミコンの赤青メガネを利用した「とびだせ大作戦」あたりがその嚆矢であるのだが、トミーの3Dゲームから数えて、実に4年の歳月がかかっていた。それまで立体視を可能とする家庭用TVゲーム機は存在しなかった訳であるが、それだけにトミーの電子ゲーム機の革新性の高さがよく分かるというものだ。

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