1950年代にEmercyレーベルに何枚かの素晴らしい作品を吹き込んだアルト奏者、Herb Geller。アルト奏者の系統として分類すれば、その艶やかな音色と溢れる歌心から、彼はArt Pepperと同系統として認識されるタイプでしょう。ただ、Pepperのサウンドには(良い意味で)どこか暗い翳りがあり、軽さの中にも鋭さや重厚感があるのに対して、Gellerのサウンドは軽く、明るく、非常に粋で洒落たセンスに富んでいるという点が特徴であるといえます。知名度はPepperと比較するとマイナーであると言わざるを得ませんが、好調時のその卓越したフレージングセンスや歌心はPepperのそれと甲乙つけ難いものがある、素晴らしいプレイヤーです。 本作はピアニストの妻、Lorraine(彼女についてはレビュー内“At the Piano / Lorraine Geller”の項を参照)との数少ない競演盤。アルバムタイトルもそのことに由来しています。選曲はウェストコーストの作品らしく、メジャー系の軽妙な佳曲を中心とした構成で、Herb Gellerの持ち味が上手く引き出されています。派手さはありませんが、Geller夫妻の演奏は共にスピード感とキレがあるのに加え、構成やフレーズに全くと言っていいほど破綻が無く、安心して聴くことができる非常に素晴らしいものであると感じます。スタンダードの名曲“Cherokee”のコード進行を借りた@、テーマの洒落たアレンジが光るB、リラックスしながらも深く歌い込まれているバラードのJなどがオススメのテイク。 「知られざる名手」などと言うとありきたりな表現になってしまいますが、存在を知られないままに消えてしまうにはあまりに惜しい存在。妻Lorraine Gellerと共に、再評価を希望するミュージシャンの一人です。 |
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