バリーハリスというピアニストを小説家に例えるならば、ひとつひとつ丁寧に言葉を選んで、それらを積み重ねながらじっくりストーリーを練っていく、そんな職人タイプの小説家でしょう。インスピレーション一本でやっていく天才タイプの作家でもなければ、派手なストーリー展開に頼る流行作家でもない。それぞれの言葉の持つ力を熟知し、それらを適切に吟味し、その味を引き出すことにひたむきに取り組んでいる。地味ではあるけれど本当の意味での実力・才能を持った小説家。彼の作り出す音楽は、僕にそういった印象を抱かせます。 自己リーダー作の“At the jazz workshop”やリー・モーガンの“The sidewinder”など、60年代の作品ももちろん良いのですが、90年代に入って発表されたハリスの作品群はどれも円熟味に溢れ、特に評価の高いものになっています。 この作品は、95年に新宿のライブハウスDUG(村上春樹の「ノルウェイの森」に登場することでも有名)で行われたライブを収録したもの。リラックスした雰囲気の中、スタンダードを中心に、彼の物静かで語りかけてくるようなフレーズの数々が、素晴らしい物語を紡いでいきます。ラストでハリスの代表曲Nascimentoが演奏され、会場全体が手拍子&大合唱で一体になる様子は本当に感動的。 知られざる名盤として、僕が皆様に是非オススメしたい一枚です。
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