3本のリード楽器を同時に操る盲目の怪人、ローランド・カーク。近年彼の音楽性は改めて見直され、その評価は再び高まっていますが、一見して奇抜でグロテスクと思われがちなイメージの為に、未だ敬遠して聴かず嫌いの方も多いというのが現状のようです。 そういった聴かず嫌いの方や、未だカークの音楽に触れた事の無い方に是非聴いて頂きたいのが、今回ご紹介する“domino”というアルバム。カークの頭の中で描かれた独自の音楽世界を崩すことなく、モダンジャズのフォーマットと見事に調和が取れた、非常に聴き易く、且つ個性に満ちた作品です。このジャズっぽさというのは、バックのWynnton Kelly(p)やRoy Haynes(ds)らの影響力というのが少なからずあるような気もしますが。 カークの音に内包された底知れぬ悲しみ、哀愁、暗さ。きっと@の一音目を聴いただけで、それらを感じ取ることができるでしょう。Dのフルートの音色も何とも悲しく、そして何故かノスタルジックな香りがします。それと同時に、その悲しみを強引に打ち消すかの如く、演奏の中にちりばめられたホイッスル・サイレンなどの遊び心や、おどけたようなメロディーライン。カークの音楽の中には、奴隷としての日々の辛い労働を忘れる為に歌われたブルース、そして黒人音楽の原点や本質が垣間見られるような気がします。 音楽性のみならず、人生そのものがかなり数奇で個性的だったローランド・カーク。個性派揃いのジャズの世界に於いてさえ、その存在は希有であり、one&onlyなものです。残された音源を通して、その独特の世界観を是非御体験頂きたいと思います。
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