第 10 回

万有引力による円運動
水平投射の初速度がどれだけあれば地球周回軌道に乗れるか——人工衛星・第一宇宙速度
    質量 m の物体が地表すれすれを飛んで地球を一周するとき,この物体は重力 mg を向心力とする等速円運動をしている。 この等速円運動の運動方程式は,
      F = ma = mv² / r
    円運動の半径は地球の半径 R ,向心加速度は重力加速度 g だから,
      mg = mv² / R
    となり,これを v について解くと,
      v = √Rg    
    が求まる。これを第一宇宙速度と呼ぶ。
     実際の数値,R = 6.4×106mg = 9.8m/sec2 を代入すれば,v = 7.9×103m/sec となる。
ニュートンの考えたこと——「ケプラーの法則」の数学的解明〜万有引力の法則
アイザック・ニュートン( Sir Isaac Newton,1642〜1727,イギリスの科学者,力学の体系をまとめた

 ニュートンは考えた。月はなぜ落ちてこないのか。そして,なぜ,彼方へ飛び去ってしまわないのか。ニュートンは,「ケプラーの法則」を数学的に解明することでこの疑問を解決した。

    ケプラーの法則は,1619年にヨハネス・ケプラーによって解明された惑星の運動に関する法則。(Johannes Kepler,1571〜1630,ドイツの数学者,自然哲学者
     ケプラーは,ティコ・ブラーエの観測記録から,太陽に対する火星の運動を推定し,以下のように定式化した。

        → ティコ・ブラーエ(Tycho Brahe,1546〜1601) デンマークの貴族で天文学者。その才能を認めたデンマーク王フレゼリク2世の支援を受け,ベーン島にウラニボリ天文台,ステルネボリ天文台を建設し,天体(主に惑星)の(見かけの)動きについての大量かつ精密な観測記録を残した。「ティコの新星」を発見し,肉眼で確認できなくなるまでの14ヶ月間観察を続け,記録を残したことでも有名。


    ケプラーの法則
    第1法則 :
      惑星は,太陽をひとつの焦点とする楕円軌道上を動く。
    第2法則 :
      惑星と太陽とを結ぶ線分が単位時間に描く面積は,一定である(面積速度一定)。
    第3法則 :
      惑星の公転周期(T )の2乗は,軌道の半長径(R )の3乗に比例する。
        T ² = kR ³
     先に,第1法則および第2法則が解明されて1609年に発表され,後に,第3法則が解明されて1619年に発表された。これらのうち,第2法則は角運動量保存の法則に他ならない。

 そして,ニュートンは考えた。
 ハナシを簡単にするために,ふたつの焦点が一致している場合を考える。ふたつの焦点が一致する楕円は円である。すなわち,半径 r の円軌道を描く,質量 m の惑星である。円軌道を描く惑星は等速円運動をする(ケプラーの第2法則からも明らか)。この惑星の公転周期をT とおくと,時間がT たつ間に一周( 2π rad )公転するから,角速度 ω は,ω = 2π / T である。この惑星の等速円運動の運動方程式にこの ω を代入すると,向心力 F は,

    F = mrω² = 4π²mr / T ²
となる。これに,ケプラーの第3法則,T ² = kR ³ を代入すると,
    F = ( 4π² / k ) · m / r ²
である。ここで,( ) 内は定数なので,これをあらためて k´ と書き直すと,
    F = k´· m / r ²
すなわち,惑星は,その質量 m に比例し,太陽との距離 r の2乗に反比例する力を受けていることになる。

 ところで,この力(向心力)は,(太陽が惑星を引いているばかりではなく)惑星と太陽がおよぼし合う作用反作用の力である。つまり,太陽も惑星からの力を受けているはずだ。太陽と惑星が物体として対等であると考えるなら,この力は惑星の質量 m に比例するだけでなく,太陽の質量 M にも比例していると考えるほうが自然だ。つまり,この力は,比例定数を G として,

    F = G · Mm / r ²
という式にしたがうのだ。

 ニュートンは,このようにして,手の届かない天体が受ける見えない力を発見した。
 そしてさらに,天体に限らず,質量がある物体ならあらゆるものがこの力をおよぼし合う,と一般化した。この力を万有引力と呼び,この式を万有引力の法則という。比例定数 G万有引力定数と呼ばれる。
 万有引力定数はとても小さな値なので,天体ほどの大きな質量でないと,感じられるような大きな力にはならないので,人間程度の質量の物体間では感じられない。その値は,

    6.673 × 10–11m² / kg²
である。