化学変化を化学式を用いて表した式が化学反応式であったが,「反応」のうち,特に「イオンが関係する反応」について,反応しないイオンは省略し,反応に直接かかわっているイオン(およびそのイオンを含む物質)だけを示した反応式を「イオン反応式」という。
「イオンが関係する反応」というのは,「反応物・生成物のうち,ひとつでもイオン性物質を含む反応」である。具体的には,練習問題5に示したうち,(1),(2),(4),(5) が「イオンが関係する反応」であり,前々ページの例(水素の燃焼)や,練習問題5の (3),(6) は,イオンが関係しない。
例えば,硝酸銀 AgNO3 水溶液と塩化ナトリウム水溶液を混合すると,塩化銀 AgCl が沈殿するという反応を考えよう。まず,化学反応式は以下のようになる。
ここでは,「沈殿する」「溶解している」ということが重要である。そもそも,イオン性物質が「溶解する」「沈殿する」というのはどういうことだっただろうか。
さて,この反応を順を追って考えよう。始め,硝酸銀水溶液と塩化ナトリウム水溶液は別々になっている。それぞれの溶液中では,Ag+ と NO3-,Na+ と Cl- が,水和・電離して,溶解している。すなわち,各溶液中のイオンは,それぞれと水分子との引力の方が,両イオンどうしの引力よりも強いわけである。簡単に言えば,Ag+ と NO3-,Na+ と Cl- という組み合わせは,「水に溶ける組み合わせ」なのである。
次に,2つの溶液を混合する。そうすると,4種のイオンがすべて出会うという新しい事態となる。ここで,混合前とは違う,新しい組み合わせが出現する。すなわち,Ag+ と Cl-,Na+ と NO3- という組み合わせである。(ここで,+どうし,−どうしは,引き合わないので無視)
ここで新たに生じた,+と−の,引き合う組み合わせのうち,Na+ と NO3- は,それぞれのイオンと水分子との引力の方がイオンどうしの引力よりも強く,やはり「水に溶ける組み合わせ」なので,水和・溶解したままでいるのだが,Ag+ と Cl- というのは,イオンどうしの引力の方がそれぞれのイオンと水分子との引力よりも強く,水分子が割り込めず,水和しない,「水に溶けない組み合わせ」なのである。
その結果,混合溶液中で Ag+ と Cl- が出会うと,水和が解けて両イオンが強く引き合って結合し,水に溶けない物質となって沈殿するのである。もう一方の Na+ と NO3- は,溶解したまま変化しない。
このとき,AgCl の沈殿を除いた「上澄み」は,NaNO3(硝酸ナトリウム)の水溶液になっており,溶媒(水)を気化させて除くと,その結晶が得られる。
ちなみに,Na+ (およびアルカリ金属陽イオンすべて)と NO3- は,それぞれどんなイオンと組み合わされても,「水に溶ける組み合わせ」となる性質があることを覚えておくこと。
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さて,以上の検討をもとにして,硝酸銀水溶液と塩化ナトリウム水溶液の混合のイオン反応式を考えよう。
まず,○+ という陽イオンと□- という陰イオンでできているイオン性物質○□が,溶解していないときに「○□」,水和・溶解しているときに「○+ + □-」と表すことにする。そうすると,先の化学反応式は,
すなわち,この反応において「反応に直接かかわっているイオン(およびそのイオンを含む物質)」というのは,Ag+ ,Cl- と AgCl のことであり,「反応しないイオン」は,Na+ と NO3- であることがわかる。
「イオン反応式」にするには,上の式から「反応しないイオンを省略」すればよい。具体的には,この式の左辺と右辺から,「同じものを消去」すればよい。そうすると,