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井の頭池の水質の日変化
1994.8.4「日の出から日の入りまで連続調査」の結果より
中学校水質調査グループの活動から V
中学校・高等学校 原山晶彦
はじめに
1994年度の中学校水質調査グループでは,夏休みの活動のひとつとして,井の頭池の水質の,1日の間での変化を連続して調べることを試みた。これは,年4回,春夏秋冬の定期的な水質検査を行なっている井の頭池の,「ある1日」の水質の変化を調べようというものである。これは,1992年度の「紀要」で,『水質検査についても,本文中に述べたように,とにかくデータをためていくこと,これが必要だ。それも,単に定期的な検査,というだけでなく,ある日の,あるポイントの,一日の水質の変化についても,調べてみることが必要だろう。自分たちに可能な,さまざまなやり方を,いろいろと工夫をしながら実行していくことだと考えている。』1)と述べたことの実践報告でもある。そのときのデータをここに示し,考察を試みる。
測定項目
上記したように,本グループでは,年4回,春夏秋冬の各季節における,井の頭池と神田川(丸山橋)の水質の検査を続けてきている。検査・測定項目は,中学生・高校生にも実行しやすい項目で,毎年参加している「身近な川の一斉調査」*での測定項目と同じものを取り上げている。すなわち,電気伝導度,pH,アンモニア性窒素,亜硝酸性窒素,CODである。各項目について簡単に解説しておく。
* 身近な川の一斉調査 :
「住民団体等と連携をとり,身近な川の水質をパックテストで一斉に調査し,汚染状況を明らかにするとともに,水質測定の体験や水質の汚染状況をみんなで冊子にまとめる実践活動をとおして,水質の改善や水質保全の一歩につながる取り組みとする。」という趣旨のもとに,小金井市生活環境部生活環境課公害係が事務局となって,毎年1回実施されていた活動である。現在は小金井市としての活動でなく,「みずとみどり研究会」に事務局を置き,地域住民の活動として定着している。
電気伝導度
純粋な水は電流をほとんど通さないが,無機イオンが混入すると電流を通すようになる。電気伝導度は,水中の電気の通りやすさを示すものであり,水に混入している無機イオンの総量を表わす指標となる。
pH(ペーハーまたはピーエイチ)
水の酸性・アルカリ性を示す指標である。中性はpH7であり,数値が小さくなるほど酸性,大きくなるほどアルカリ性が強くなる。淡水のpHは7前後である。
アンモニア性窒素
アンモニウムイオン(NH4+)として水中に存在する窒素の量である。河川上流や湧水・地下水中にはほとんど検出されないが,タンパク質や尿素など,有機物の多い還元的環境(溶存酸素の少ない)では多く存在する。
亜硝酸性窒素
亜硝酸イオン(NO2−)として水中に存在する窒素の量である。上記アンモニウムイオンの酸化や,硝酸イオン(NO3−)の還元によって生成し,有機物の多い還元的環境で多く検出される。
COD(化学的酸素消費量)
水中の酸化されやすい物質(主として有機物)の酸化によって消費される酸素の量である。この値が大きいほど,水中に有機物が多いことを示している。
これら項目のうち,電気伝導度は電気伝導度計(SCメーター)で,pH は簡易型のpHメーターで測定し,他の3項目については,「パックテスト」により,測定した。パックテストというのは,ポリエチレンチューブの中に,調合された試薬が一回分ずつ封入されているもので,このチューブに穴を開けて試水を吸入し,試薬の発色を標準色と比較して,結果を求めるものである*。中学生にも簡単に扱え,また,薬品を取り扱ううえでの危険もないので,本グループをはじめ,市民団体による水質調査活動には便利なものである。
*アンモニア性窒素については,近年,「パック」ではあるものの,少し手間のかかる方法に変更となった。ひとつの「パック」に検水を吸い込めば終わり,ではなく,初めに検水に顆粒状の試薬を溶解し,その液をパックに吸い込む,という2段構えの方法である。これは,以前の「1パック式」では,パック内の試薬に水銀が含まれており,環境保全の意義のうえから,それはふさわしくない,という評価がなされたため,水銀を使わない方法を開発した結果である。
測定ポイント
井の頭池の水質を測定するために採水したポイントは以下の通りである。これは,各季節の定期採水検査を行っているポイントと同一である。ただし,定期採水検査では丸山橋(神田川・三鷹台駅際)でも測定しているが,今回の「日変化の連続測定」においては省略した。各ポイントについて概説しておく。
湧水
通称「お茶の水」。井の頭池北西の崖のふもとから地下水が湧きだしていた,本来の井の頭池の水源であったが,近年この湧水は枯れてしまい,現在は近くの井戸から汲み上げた水をここから流している。
七井橋
ボート乗り場のところにかけられている橋。採水は橋の中央部で行なっている。このポイントは,位置的には公園の西よりにあるが,事実上の井の頭公園の中心であり,橋の北側には土産物店や軽食堂が数軒ある。また,そのすぐ北側からは吉祥寺駅方面への道路が延び,道路沿いには飲食店が多く存在する。
ひょうたん橋
井の頭池のもっとも東の部分で,ひょうたん形にくびれたところにかかっている橋。このすぐ脇から,神田川が流れ出している。採水は,橋の西側の池のほとりで行なっている。
井の頭公園駅下
ここはすでに「池」ではなく,すでに「神田川」となっている部分であるが,広い意味での井の頭公園の内部(京王井の頭線井の頭公園駅の脇に広がっている広場の中を川が流れている部分)であるので,検査ポイントとして選定した。川の南側は草原の広場であり,北側は砂利敷の広場・通路で,その北側には民家がある。採水は,駅の真下の流れの中央部で行なっている。
測定日時
冒頭にも記したように,この測定は1994年8月4日に実施した。測定時刻は,6:00,8:00,10:00,12:00,14:00,16:00,18:00 で,計7回の測定を行なった。当初の計画では,まる1日,24時間の測定を考えたのだが,中学生のグループの活動の限界として,日の出から日の入りまで,2時間間隔で7回,都合12時間としたのである。
測定結果および考察
測定結果をそれぞれグラフに示し(前記の測定項目は5種類であるが,水温のデータを加えて6項目とした),若干の考察を試みた。
水温
水温の変化は明解である。図で明らかなように,湧水の水温は16℃ほどで一定であるのに対し,他の水温は日の出から昼過ぎまで上昇し,日の入りに向かって下降している。湧水は地下水であるから,太陽光による加熱の影響を受けないので,一日中一定の温度であり,他は太陽光によって加熱され,温度が上がっているわけである。太陽光は太陽高度が高いほど強いから,日の出から正午まで強くなっていき,午後には弱くなっていく。したがって,水温も日の出から正午に向かって上昇し,日の入りに向かって下降することになる。さらに,太陽高度がもっとも高くなる12:00よりも後に最高水温となるのも理論通りである。すなわち,水は比熱が大きい(暖まりにくく冷めにくい)ので,太陽光の強さの変化よりも,少し遅れて温度が変化するのである。ひょうたん橋での最高水温が七井橋,駅下よりも遅い時刻になるのは,日当たりの違いであろうか。ひょうたん橋付近は他の2ポイントよりも樹木が茂っていて,日陰がちなのである。さらに,池の内部での流れ,対流も考慮する必要があるが,現在のところ,材料を持ち合わせないので,ここまでにしておく。
電気伝導度
まず目につくのは,湧水の値に対し,他の3ポイントでの値がずっと大きいことである。また,この違いや,値のおおざっぱな変化は,前項の水温の変化と平行していることにも気づく。電気伝導度は水温との関連があり,一般に水温が高いと電気伝導度は大きい。したがって,水温の違いと変化が,電気伝導度の違いと変化に投影されていると考えれば,基本的には納得がいく。しかし,七井橋での10:00の値,湧水の14:00の値が低下していることについては,その原因は不明である。
pH
このデータも考えやすい。まず読み取れるのは,湧水のpH値はほぼ一定であるのに対し,他の3ポイントの値は,日の出時には湧水の値に近いのに,午前中かけて上昇し,12:00から15:00をピークとして,ゆっくりと下降する傾向を見せていることである。また,七井橋とひょうたん橋の値はほぼ同じように推移するが,駅下での値は,この2ポイントと湧水との中間的な変化を示していることである。
一般に,『pH値は,主として水中の炭酸イオンによって変化する。すなわち,空気中の二酸化炭素が水中に溶け込んで炭酸イオンが生じると,pH値は低下,すなわち,より酸性よりになる。しかし,水中に植物プランクトン等が生息し,光合成を行なうと,この炭酸イオンが消費されるので,pH値は増大する。逆に光合成があまり行なわれず,生物の呼吸や代謝によって炭酸イオンが生成すると,pH値は低下する。また,もちろん,酸性・アルカリ性の水(鉱泉水や,汚染水)の流入によっても,pH値は変化する。』2)
このことから,上記のポイントによるpH値の変化は,次のように理解できる。すなわち,七井橋やひょうたん橋付近では,水中に植物プランクトンが多く生息して,活発に光合成を行なっているので,これらポイントではpH値が高くなる。実際,水はやや緑色に濁っており,恐らくラン藻類の発生が考えられる。そして,これら藻類の光合成の活動は,水中に差し込む太陽光が強くなれば活発化するから,太陽光の強さが最大になる正午に向かって光合成が活発化し,水中の炭酸イオンの消費が多くなり,それだけpH値が増大していく。そして,午後になって太陽光が弱まると光合成は不活発になり,また,水中生物の呼吸・代謝によって,さらに,空気中からの二酸化炭素の溶解によって,水中の炭酸イオンが再び増加するので,pH値は徐々に下がっていくのである。しかし,井の頭公園駅下ポイントでは,水は流れており,また,濁りも見られず,藻類の生息量は少なく,したがって,光合成による炭酸イオンの消費はなく,pH値の変動は生じない。しかし,pH値の変化した水が井の頭池から流入してくるので,池の2ポイントのpH値の変化を反映して,結果としてpH値が変化しない湧水の値との中間的な変化を示しているのであ ろう。
ところで,湧水のpH値の14:00での落ち込みは,電気伝導度の14:00の落ち込みと平行している。電気伝導度の落ち込みは原因不明と述べたが,pH値も同様の変化を示していることから,湧水の成分が一時的に変化した,ということなのかもしれない。
さて,七井橋とひょうたん橋のpH値の変化の微妙な違いは,恐らく日照の違いの現れであろう。前記したように,ひょうたん橋付近の方が樹木が茂っているので,水面に差し込む日光の変化も一様でない。七井橋付近は池の真ん中であるので,日差しをさえぎるものはなく,太陽高度の変化がそのままpH値の変化として現れるのだろうと考えられる。
14:00〜15:00にピークとなった池の水のpH値は,日の入りに向けて下降しているが,夜間はどうなっているのだろうか。これについては,次のように考えられる。日の入り後は,太陽光は差し込まなくなるから,植物プランクトンの光合成は行われない。したがって水中の炭酸イオンの消費は行われなくなる。一方,水中生物の呼吸・代謝による炭酸イオンの放出や,空気中からの二酸化炭素の溶解は夜間にも行われるから,その結果,水中の炭酸イオン濃度は増大する一方であり(もちろん溶解度の範囲内で),したがって,pH値は次第に低下していくのであろう。そして,翌朝,日の出の直前に最小のpH値を示すことになるのだ。この夜間のpH値の変化についての仮説は,ぜひ実際の測定によって実証したいと考えている。すなわち,機会を得て,24時間連続測定にチャレンジしたいものである。
アンモニア性窒素

4つの測定値が入り乱れてなかなかにぎやかである。ここでの変化はバラバラに見えるが,注目すべき点がいくつかありそうである。まず,七井橋とひょうたん橋での値の変化は,多少のニュアンスの違いはあるが,似通っていることである。日の出後に高い値を記録し,その後減少して正午にゼロとなる。午後には再び増大して,日の入り時には日の出時と同程度の値に落ち着いているようである。駅下での値は動きが異なっており,日の出時には池の2ポイントの中間であるが,日の出後2時間で減少してゼロとなり,次いで増大して正午に最大となる。午後には再び減少・増大を繰り返して,日の入り時には日の出時と同程度の値になる。さらに注目すべきは湧水の値である。一般的にはこの値が低いことが期待される湧水であるが,日の出時はひょうたん橋と同じ値で出発し,8:00〜10:00にはゼロを記録しているものの,その後12:00〜16:00には増大して日の出時と同じ値になり,さらに増大して日の入り時には最大値となっている。日の入り時には,4つのポイントがすべて同じ値になっているのも興味深い。
さて,これらの変化をどう読み取るか,ここに現れた現象の原因になっているのは何か,ということであるが,これを考えるにあたって考慮すべきことがある。それは,湧水の測定値である。前述したように,アンモニア性窒素の測定は2段構えのパック・テストである。この方法は歴史が浅く,テスト法としても,また,使用する生徒の方も十分に慣れていないので,測定値の信頼性が他の項目のものよりも劣ると考える必要があるかもしれない,ということである。このことが,低い値が期待されるはずの湧水が,かなり高い値を示した理由であるとすれば,すなわち,他のポイントの測定値も,本来の値を示していないことを示唆しているのかもしれない。この問題が未解決であるため,このアンモニア性窒素の測定結果についての考察は,今回はここまでとしておく。(ただ,次項の亜硝酸性窒素の測定結果との関連で,注目すべき点があるが,また別の機会に考察を加えることにする。)
亜硝酸性窒素

この項目についての観点はみっつであろうか。ひとつは,湧水の値は終日ほとんどゼロという低いものであるが,他の3ポイントの値は,それよりずっと大きなものであることである。ふたつめは,「池」の2ポイントはほぼ同じ変化をたどり,日の出後2時間で増大してピークとなり,その後2時間で初めの値に戻って落ち着くのだが,16:00〜18:00に,七井橋での値がぐっと減少していることである。みっつめは,駅下の値は,日の出時と10:00以降は「池」のポイントと同程度であるのに,日の出後4時間の変化が「池」の2ポイントと逆であることである。
以上のみっつの観点から,また,アンモニア性窒素の値との関連から,考察をすすめていきたいのであるが,筆者にこの項についての知識が不足しているため,今回はデータの紹介にとどめ,別の機会に稿をあらためて,このことについての考察を試みることにする。
COD

湧水以外の3ポイントでの値の変化は,おおざっぱなところでは平行していることがわかる。すなわち,日の出時には多少の値で出発し,午前中かけて減少して10:00〜12:00に最小値となり,午後には再び増大するが日の入り時までには再度減少していく,という変化が見えている。ポイント間の違いとしては,他のポイントは午前中は減少一方なのに,ひょうたん橋では日の出後2時間は値が増大していること,他ポイントは16:00以降は減少しているのに,七井橋では増大していくことである。湧水は,日の出時・日の入り時に多少の値を示しているものの,日中はずっとゼロである。
CODは有機物による汚染の目安と考えられるから,朝のうちと昼過ぎに汚染物質の流入あるいは投入,あるいは水中での汚染の発生が推測される。そして,朝のうちの汚染が午前中に回復していくことが示されているわけである。
水中での汚染の発生があるとすれば,それは池に生息している動物の排泄物が主であろう。井の頭池の生物としては,コイ等の魚類と水鳥の類が考えられる。しかし,こういった動物の排泄物に由来する汚染は,アンモニア性窒素,亜硝酸性窒素の量として現れるのが普通であると考えられるから,このCOD値の変化の主因ではなさそうである。COD値の増大の要因として考えらるのは,一般には人間の生活廃物に由来するものである。しかし,近隣の住宅・飲食店・商店等からの排水は,すべて下水道を経て汚水処理場に集められているはずなので,断言はできないが,ここでは考慮しなくてよいだろうと考える。そうすると,次に問題になるのは,通行人・観光客等が(鳥や魚の餌として)池に投入する食物類だろう。特にいわゆるスナック菓子はCODをぐっと増大させる。この「スナック菓子の水質汚染への影響」については,本グループで現在研究中であるので,ここではその可能性を示すだけにしておくが,汚染源のひとつとしては取り上げるべきだろうと考えている。
しかし,たとえそういった汚染があったとしても,「朝のうち」と「昼過ぎ」に汚染が発生するという可能性はどうであろうか。また,午前中それが回復する,ということはどう考えたらよいだろうか。COD値の増大として現れる汚染,すなわち有機物の混入による汚染が回復するということは,その汚染物質がなんらかの理由によって分解される,ということを示しているのだろうか。そうだとすると,その作用をになっているのは何だろうか。ひとつの可能性は,水中の微生物が考えられる。
ここであげたいくつかの可能性については,実験的に確かめていくことが可能なものがありそうだ。そして,そのためのデータのひとつとして,夜間も含めた24時間の連続調査も必要になるだろう。これについては,筆者らの今後の課題である。
おわりに
こうしてまとめてみると,水温・電気伝導度・pHの3項目以外については,なんとも歯切れの悪い考察になってしまった。原因は,ひとえに筆者の知識の不足にある。「実験的に確かめていくことが課題」などと言ってしまったが,その前に,必要な知識を十分に得ることが肝要であることは言うまでもない。そのことを肝に銘じて,今回の稿を終わりにすることにする。
(はらやま・あきひこ 高等学校教諭・水質調査グループ顧問)
文献
1)井の頭池と神田川の水質〜中学校水質調査グループの活動から〜,原山晶彦,「紀要」第22号,1992
2)第4回身近な川の一斉調査マニュアル,小金井市生活環境部生活環境課,1992
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